第二話 「青い光」 第10節の5
鍛冶舎は、コンパクトに4曲を演り、最後に次のライブの告知だけして、一瞥もせずに出ていった。
入れ替えの時に俺はあゆみに言った。「いなくても、あの曲を演るしかない」と。あゆみの眉間には皺が入り、輝広は何時もの他人事のような顔付きで頷いた。
次の“White Heat”のメンバーは、ベースの女の子を除いてオッサンだった。そのうち、黒い服で身を固めた、少し禿げて腹の出たオッサンが、リッケン六二〇を抱えたまま、サングラス越しにあゆみを見て、少し驚いた表情をした。
「・・・・お久しぶりです」とあゆみは言った。
「懐かしさで、俺を見に来た訳じゃ無さそうだな」
強い酒と煙草でつぶれた声で彼は言った。そして、サングラスを少し下げ、フレーム越しにあゆみを見た。鋭いが、視点の少し定まらない、濁った目だった。前の歯の何本かが、安物の差し歯なのが分かった。
「ボイドさんの次に、出るんです。・・・・この人、ドラムです」と言って、あゆみは、俺の背中に隠れた。
「一緒に演っているのか・・・・。今後とも宜しく」と言って、彼は俺の右肩に手を置いた。
何かあったのか・・・・。あゆみは、一見気が強く見えるこの女は、俺のシャツの裾を握って小さくなっていた。
ボイド氏のバンドは、古いニューヨーク・パンク風の演奏に、泥臭い日本語の歌詞を乗せた、・・・・想像した通りの演奏だった。“東京ロッカーズ”の時代、こういうバンドは結構あった。後は、どういう風にテイストを切り取って、自分のモノにするか。ベルベット風にヘタウマで行くのか、テレビジョンみたいにギターのアンサンブルを聴かせるのか・・・・。
俺は、ボイド氏の歌には、ピンと来なかった。
曲間であゆみは言った。「ボイドはショーケンが好きなのよ」
“ショーケン”って、萩原健一か。オマエの年齢で、その呼び方を知っている女の子なんていないんじゃないか。
ふと、袖を引かれて振り返ると、後ろに薫子が立っていた。
“どうした”と声に出さずに言った。
“冬美ちゃんが来ないけど、どうする”
その目には動揺が無い反面、テンションの高まりも無かった。
入れ替えの時に俺はあゆみに言った。「いなくても、あの曲を演るしかない」と。あゆみの眉間には皺が入り、輝広は何時もの他人事のような顔付きで頷いた。
次の“White Heat”のメンバーは、ベースの女の子を除いてオッサンだった。そのうち、黒い服で身を固めた、少し禿げて腹の出たオッサンが、リッケン六二〇を抱えたまま、サングラス越しにあゆみを見て、少し驚いた表情をした。
「・・・・お久しぶりです」とあゆみは言った。
「懐かしさで、俺を見に来た訳じゃ無さそうだな」
強い酒と煙草でつぶれた声で彼は言った。そして、サングラスを少し下げ、フレーム越しにあゆみを見た。鋭いが、視点の少し定まらない、濁った目だった。前の歯の何本かが、安物の差し歯なのが分かった。
「ボイドさんの次に、出るんです。・・・・この人、ドラムです」と言って、あゆみは、俺の背中に隠れた。
「一緒に演っているのか・・・・。今後とも宜しく」と言って、彼は俺の右肩に手を置いた。
何かあったのか・・・・。あゆみは、一見気が強く見えるこの女は、俺のシャツの裾を握って小さくなっていた。
ボイド氏のバンドは、古いニューヨーク・パンク風の演奏に、泥臭い日本語の歌詞を乗せた、・・・・想像した通りの演奏だった。“東京ロッカーズ”の時代、こういうバンドは結構あった。後は、どういう風にテイストを切り取って、自分のモノにするか。ベルベット風にヘタウマで行くのか、テレビジョンみたいにギターのアンサンブルを聴かせるのか・・・・。
俺は、ボイド氏の歌には、ピンと来なかった。
曲間であゆみは言った。「ボイドはショーケンが好きなのよ」
“ショーケン”って、萩原健一か。オマエの年齢で、その呼び方を知っている女の子なんていないんじゃないか。
ふと、袖を引かれて振り返ると、後ろに薫子が立っていた。
“どうした”と声に出さずに言った。
“冬美ちゃんが来ないけど、どうする”
その目には動揺が無い反面、テンションの高まりも無かった。
by jazzamurai_sakyo
| 2009-04-15 00:44
| 第二話 「青い光」