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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第11節の1

     十一

 「癩王のテラス」は、幕間の音楽をかけないでくれと言った。
 既に、あゆみと輝広はアンプにプラグを突っ込み、つまみを弄っている。キーボードはつないである。冬美と薫子の、チューニングを聴きながら、俺はタムをチューニングした。
 ドラムのセッティングは、小さな仕事で済みそうだ。
 この箱に馴染みの無い「癩王のテラス」のセッティングの間に、客は半分位逃げてしまい、フロアーにいる客の足も漫ろだ。
 だが、鍛冶舎と、YAEのバンドと、何時の間にか宮坂が、前に立っていた。あゆみは振り向いて、“キテルヨ”と戯けた様に唇を動かした。
 紫野山さんの姿も、入り口に見えた。
 何人かの女の子が、冬美を見てひそひそと話している。
 輝広は、椅子に座って弾く様だ。
 薫子が、俺の方を見る。そう言えば、練習でこの曲を始める時、薫子は何時も、俺の方を見ていた。
 “ゴメン。先に始めて”と俺は言った。
 薫子は、冬美を見る。その時、凄まじい表情で冬美が俺を見ていることに気が付いた。
 “何だ”と思った瞬間に、冬美の即興が始まった。
 それは、打ち合わせに無いことだった。
 あゆみが、ぎょっとした顔で俺を見る。薫子と輝広は、客席を向いていた。薫子の背は凛としていた。
 冬美は、客席に背を向け、俺の方を向いて弾き続ける。
 ゼータのエレクトリック・ヴァイオリンは、軽いエフェクトを纏いながら、氷の破片の様な音をまき散らし、飛翔する。
 あれ、何か、錯乱がある。何かに抗う様な・・・・。
 その音に引き込まれながら、俺はセッティングを急ぐ。
 冬美が俺を凝視し続けている。
 “終わったよ”と、俺は言った。
 冬美は、高速のアブストラクトなフレーズの中にテーマのバリエーションを挟み込みながら、ゆっくりと地上に降りてきた。
 そして、ディレイでフレーズを残響させたまま、冬美は悠然且つ的確に、ボリュームとエフェクターを調整し、・・・・イントロを、弾き出した。
by jazzamurai_sakyo | 2009-04-29 00:55 | 第二話 「青い光」

by jazzamurai_sakyo