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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第三節の1

     三

 「なあ、そろそろワリカンにならないか、・・・・飲み代」
 「ダメー」
 練習の帰り、俺はまた、あゆみと一緒に紫野山さんの店で飲んでいた。だが、何時もこの店で勘定を持つのは俺なのだ。何故、俺は何時もコイツと飲んでいるのか。それは一度、ちゃんとグルーブが合ってこないことを話し合っておかなければならないと思っていたからだが、何故か何時も言えないでいた。
 「あゆみ、お前、飲む時は常に他人の財布なのか」
 「そうよー。最近の例外を除いてね」
 「何だ、例外って」
 「最近、あゆみちゃん、困った爺さんにタカられてるんやわ」と、紫野山さんは言った。
 「爺さん?」
 「最近、良く来る客なんやけど、ピアニストなんやわ」
 「草ちゃんは、やたらピアノが上手いのよ」
 「ある日、終い際にあゆみちゃんと話してたら、ふらっと入ってきてなあ。かなり酔ってたから、『もう終いです』て言ったんやけど、『ジャック・ダニエルを一杯だけ飲ませてくれ』て言うから出したんやわ。暫く大人しく飲んでたんやけど、突然、 あれに近づいて、勝手に弾き出してなあ」と、紫野山さんは店の奥の古いアップライトを指さした。
 「ラグタイムっていうの。指がね、早足で逃げていく蜘蛛の足みたいにね、するするするするって交差して」
 「あゆみちゃん、その表現カナンわ。僕、蜘蛛苦手やから」紫野山さんは、細い目を余計にきつくして言った。
 「・・・・凄い速さなの。私、本当に感動しちゃって。
 ただ、私には分かんないんだけど、なんか気に入らない所があると、途中で止めちゃうの」
 「時々、引っ掛からはるんやわ」
 「それで、最後まで聴きたいって言ったら、『もう一杯、奢ってくれたら』って、言うもんだから、つい」
 「次の日には、道具持ってきて、ピアノ調律してくれてなあ」
 「それから、私が一時位までいる時に限ってやって来て、毎回『なんか弾くからおごれ』って言われて・・・・、大体その時間には私も酔ってるから、何時もつい気が大きくなって」
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by jazzamurai_sakyo | 2009-11-18 00:25 | 第三話 「紫の指先」