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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第四節の2

 それから俺たちは「クレオパトラの夢」を二十回近く繰り返した。深浦氏は、その都度、原曲から離れることなく、しかし、毎回違う新鮮なアドリブをした。そのアドリブにしても、奇をてらったフレーズは無く、コードに忠実に、次の展開が読めるよう展開して、あゆみがウォーキングし易いようにしていることが、ありありと分かるのだが・・・・、あゆみは付いていくのが精一杯という感じで、ヘロヘロだった。
 曲の間、あゆみは深浦氏から、「君は本当に曲を覚えてきたのかね」、「その中途半端なブルースもどきのフレーズは止めなさい」、「そのベースにはフレットが付いているのに何故音が揺れるのかね」、「グルーヴを意識しすぎて音のチョイスが単純になっとるぞ。そもそもこのコードにあう音は・・・・」等、くどくどと指摘された。
 ついでに俺までが「君のドラムは根本的に硬いねえ。左足が全くスウィングしとらんじゃないか」と、あまり言われたくないことを言われた挙げ句、最も指摘されたくないことを言われた。
 「君達は、根本的な所でグルーヴが合ってないのじゃないかね」
 俺は驚いてあゆみを見た。あゆみも俺の顔を見ていた。その目が、明らかに動揺して、眉間が硬直していた。
 「・・・・そうでも、無いよ」
 「同じバンドだと聞いたが、何時もお互い無理して合わせているだろ」
 俺は言うに事欠いた。
 「・・・・すみません。何か違う曲をやりませんか。俺、もうクレオパトラには飽きました。これ以上やったら、この曲嫌いになります」そう言って、誤魔化すしかなかった。
 「・・・・私は、もうなった」あゆみは半べそ状態で言った。
 「じゃあ、これを」深浦氏は、同じアルバムの三曲目の「Down With It」を弾いた。これもAABA形式の単純な曲だ。「カミヤマくんはこの曲知ってるだろう。では」
 ガン。いきなり冒頭のコードを叩き込まれて俺は付いて行くしかなかった。右手と左手の速いユニゾンが弾かれる。
 余程弾き込んでいるのか、アドリブも生き生きとしていた。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-12-09 23:03 | 第三話 「紫の指先」