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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第五節の1

     五

 「明らかに煮詰まってるね」
 京大オルタナ部のスタジオで、遅めの練習が終わった時、冬美は早々と自分のヴァイオリンをしまい込むと、まるで他人事のように言った。
 「特に歌モノの二曲は、どうするのかなあ」
 「俺は歌モノにするとは言っていない」
 輝広は、練習中に弦が切れたこともあって、少し不機嫌そうだった。
 「しかし、・・・・薫子、あの話どうする?」
 「まとまった曲をやるのは無理ですね」
 薫子は、首筋をハンドタオルで拭った。細い体に張り付いたノースリーブから、長く白い首が伸びていた。
 「おい、あの話ってなんだ」俺は突っ込んだ。「ライブだな。どうして早く言わない?」
 「昨日言われた話なんです」
 「カテキョーの時に電話があったんだ。薫子は、乗り気じゃないんだろ」
 「また、ジャズのイベントなんです」
 「スノッブな、な」
 「ふん。C Jam Bluesでもやるか」俺は、あゆみを見た。
 あゆみは嫌そうな顔をしている。
 「薫子も、この大学行くなら、瀧上さんに習うんじゃなくて、ちゃんとした予備校、行った方が良いよ」と冬美は言った。そして急に「あゆみちゃんさあ、最近、演奏に張りがないね」と言った。「何かお悩みでも」
 「冬美ちゃんに相談しても、余計に傷つくだけよ」と薫子は言った。
 「・・・・まあ、私達の中に、慰めるのが得意な人はいないようだけど」
 「カオルン、もう良い」
 あれ、マジにあゆみが怒ってる。
 「別に、誰かに慰めてもらおうとは思ってない。・・・・次は、明後日の八時ね。お先」
 そう言うと、あゆみは先に出ていった。
 「なんだあいつ。普通の女みたいじゃないか」と俺は言った。
 「あいつは普通の女だよ」と輝広が言った。「じゃなきゃ、不倫なんてバカなことはしない」
 「先生」薫子は輝広を睨んで言った。「慎んで」
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by jazzamurai_sakyo | 2009-12-23 23:52 | 第三話 「紫の指先」