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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第五節の2

 俺は少し当惑したが、この前、飲んでいた深夜に、携帯に電話してきた男が、訳ありの男であろう事は、推測していた。
 「・・・・冬美、おまえのせいでライブの予定が決められなかったな」
 俺は、あゆみの話を気にしない振りをして言った。
 「薫子、今は出る気は無いんだろう?」と冬美は言った。
 「今の所はね」薫子は、冬美を見て言った。「今は中途半端なことはしたくない」。
 そして、急に俺に振り返って言った。「ねえ、神ノ内さん、あゆみちゃんとスウィングのレッスンをしてるって、本当?」
 「ああ? ただのフォービートだよ。変なジイサンにシゴかれてるんだ。明日もね」
 「そのレッスン、私も行って良いかしら」
 えっ。「・・・・良いんじゃないか」薫子の目が何か少し言いたそうにしている。俺は目を逸らした。「ライブはどうするんだ」
 「明日のレッスン次第ね」えっ。「どちらにせよ、“癩王のテラス”での出演は無理よ」
 「僕、帰るよ」冬美は立ち上がった。「眠い」
 ・・・・「薫子、高校生にはちょっと悪いんだが、今から少し、時間くれないか」
 冬美はタクシーで帰り、輝広は大学に戻った。プジョーのクロスバイクの荷台にアルトとフルートを括り付け、跨ろうとしていた薫子に、俺は声をかけた。
 「なんでしょう」ジーンズの細い右足が下ろされる。
 「あゆみの事なんだが」
 「・・・・自転車、ちょっと押して行きましょうか」「ああ」
 「東大路を北に」
 ・・・・七月初めの、京都独特の湿った熱が、百万遍の交差点にこもっていた。信号待ちで、俺は言った。
 「薫子、お前はどう思ってるか知らないけど、俺とあゆみは合わないよ。気持ち良いと思えるグルーヴが、全然違うんだ。
 今の状態で、これ以上、あゆみとやるのは、ちょっと難しい」
 薫子は、俺の目を見て言った。
 「神ノ内さん、私は気持ちの良いグルーヴを求めて一緒に演奏している訳ではないんです。それが欲しいなら、他で求めて下さい」怒っている訳ではないが、冷たい声だった。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-12-30 00:14 | 第三話 「紫の指先」