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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第五節の3

 それはそうだな。そのために集まっている訳では無いだろう。
 「・・・・ごめん。取り乱したことを言った。だが、あいつも同じ理由で悩んでいることは、恐らく事実なんだ」
 「・・・・分かっています」
 信号が青に変わった。少し風が吹いた。
 薫子と俺は、横断歩道に自転車を押し出す。
 「私は、グルーヴには興味が無い。ただ、緊張感の中で覚めていたい」薫子は前を見たまま言った。
 こいつはそうだろうな。「そうでなきゃ、こんなに趣味と出自がバラバラの人間を集めて、バンドなんか組まないだろうな」
 「神ノ内さんは、何のために演奏するんですか」
 俺は躊躇った。薫子は、渡りきった所で止まった。
 ・・・・ファン、とクラクションの音がした。信号が変わりかけている。薫子は、俺の肘に触れて言った。
 「自転車、歩道に乗せて」
 「ああ、すまない・・・・。ちょっと、思考停止に陥った」
 「・・・・行きましょう」
 カラオケ屋の店先から、安物のJ-popが流れてくる。
 「薫子とあゆみは、どうして知り合ったんだ」
 「質問に質問を返すのは反則です」
 「ごめん」
 薫子はクスリ、と笑った。「謝ってばっかりですね。
 まあ、いいわ。
 初めてあゆみちゃんと会ったのは対バンで、去年の今頃かな。
 黒服で固めたギター・ボーカルのおじさん、ケミカルウォッシュのジーンズを履いたギターのおじさん、変にキュートな服着たドラムのおじさんに一人混じってベースを弾いていたのが彼女だった」
 「それ、“White Heat”のヴォイドのことだろ。そもそも何であゆみは“White Heat”に入って、ヴォイドなんかと付き合ってたんだ?」
 「知らない。直接、あゆみちゃんに訊いて下さい」
 薫子はウインクした。・・・・俺は少し怖かった。
 「彼のやりたい事は、多分、Richard Hellとか、ニューヨーク・パンクなんでしょうね」
 「ニューヨーク・パンクのムーブメントの頃なんて、薫子は生まれてないだろ。聴いた事、あるのか」
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by jazzamurai_sakyo | 2010-01-06 23:21 | 第三話 「紫の指先」