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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第五節の4

 「Televisionは好きです。やりたいとは思わないけれど。
 “White Heat”の中で、一番目立たないけど、サウンドの一番下で、リズムと音程を堅持していたのが、彼女だった。
 その頃から、彼女がお目当ての客も多かったな。
 ・・・・何故、おじさん達は、かき鳴らすのが、パンクだと思っているのかしら。チューニングも無茶苦茶。彼らが好き勝手やっている中で、辛うじて音の核が保てているのは、彼女がそこにいたからだった。堅い、正確な音だった。無表情な顔して、細い指でね」
 「今のタメタメと違うじゃないか」堅い音なら、俺には合うはずなんだが。
 「・・・・そうね、彼女の音は大分変わったと思う。でも、私は、私の音に合うか合わないか関係なく、今のあゆみちゃんの音が好きだし、初めて聴いた時から、あゆみちゃんの本当の音は今みたいな音だと思っていた」
 「それで、何で、どうやって引き抜いたわけ」
 「打ち上げで喋ったら、もっと魅力的だったから。お酒が入ると明るくなって、甘え症になっちゃうのは、その時から全然変わって無い。そして、色々と、喋ってくれて」
 「どんなことを?」
 「それも、あゆみちゃんに直接訊いたら良い。たぶん、飲ませたら、すぐ喋るだろうから・・・・」
 「飲んでも、あゆみは、あまり自分の話はしたことなかったんだけどなあ」
 「それは、まだ飲み足りないからよ。
 それから、彼女を観るために、次の“White Heat”のライブに行って、相変わらず酷い演奏で・・・・。それで、私、気になって、あゆみちゃんにくっついて、また打ち上げに行って、その・・・・、ヴォイドさんと喧嘩になっちゃって」
 薫子は、苦笑した。苦笑する薫子を見たのは初めてだ。
 「なんで」
 「キメでリズムがずれて、八部音符、ひっくり返ったのは、あゆみちゃんのせいだって。お前、何時になったら俺達に付いて来れるんだって言って。ヴォイドさんが早く突っ込んだせいだったのに、あゆみちゃん、目を伏せたまま、ごめんなさい、って言うもんだから。
 私、あゆみちゃんと一緒に、結構飲んでいたので、ついつい、『何言ってるの、狂ってるのは、おじさん達の耳でしょう』って、それから『聴かせたいなら、もう少し練習したらどうです。下手なんですから』って、言っちゃって・・・・」
 あれ、耳朶が赤くなってる?「それで」
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by jazzamurai_sakyo | 2010-01-13 22:55 | 第三話 「紫の指先」