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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第五節の5

 「ヴォイドさんが『そりゃ、お嬢さんは女子高校生でお時間もたっぷりあるでしょうから、練習も十分出来るでしょうけどね。俺達は、仕事しながら、身を削ってバンドやってるんや。ガキのくせに巧いからって偉そうなこと言うな』って」
 「ははは、おっさんの典型的なボヤキだな」
 「その上、私に唾を飛ばしたので、その・・・・、意識がコントロールできなくなって、気が付いた時には、空のビール瓶で、右足のすねを思い切り殴ってました。瓶の首が折れる程に」
 「ははは・・・・」こいつ、酒乱だったのか?
 「それから、あゆみちゃんは辞めさせるって言いました。それで、今、一緒にいます」
 叡山電鉄・元田中の踏切に、遮断機が降りた。俺達は止まり、薫子は、俺を見ずに言った。
 「あゆみちゃんの今の彼氏のことが、彼女の音の向上を阻害するなら、それは何とかしなきゃならないのでしょうけど。私は、そういう事はよく解らないので・・・・。興味も無いし・・・・。
 そういえば、神ノ内さん、私の質問への回答は?」
 「ああ、俺が何のために演奏するか、ね」
 「ええ」
 「俺が今、此処で演奏するのは、それが歯磨きと同じ習慣であることと、・・・・そうだな、軋轢を楽しむためだった」
 「軋轢を楽しむ?」
 「そう、人間関係の中で、軋轢を楽しむなんてことは、バンド活動以外には出来ない。俺は予定調和が嫌いだ。だからこそ、君の誘いを受けたんだった」
 「ふふふ。神ノ内さん、このバンドに居心地の良さを求めるのは駄目よ。それは誤解、一瞬の幻想なのよ」
 「そうだな、その通りだ」
 出町柳行きが通り過ぎた。薫子は、プジョーに跨った。
 「・・・・私、先に帰ります。また、明日」
 水色の薄いカーディガンがひらりと揺れた。俺は、その凛とした薫子の背中を見送った。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-01-20 02:33 | 第三話 「紫の指先」