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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第六節の2

 「ええ」
 「橘君には、即興するための度胸が一番必要なんじゃ。どうじゃ、何か四人でやってみるかね」
 「良いですよ。じゃあ、深浦さん、Harbie Hancockの“The Sorcerer”って曲、ご存じですか」
 「君、Milesは嫌いだったんじゃないのか」と、俺は思わず言った。
 それは、Miles Davisが一九六七年に出した、当時全盛のフリージャズの喧噪とは、真逆のクールな同名タイトル・アルバムに入っている曲だ。MilesとWayne Shorterが八小節交換、つまりバトルをやっている。 俺はこの曲の破天荒なTony Williamsのドラムが大好きだった。
 「それはスタンダードじゃないだろ。ワシは新主流派はあまり聴かんのじゃが・・・・。確かこんなテーマだったな。コードは・・・・」
 「ソロを八小節交換しませんか?」
 「入れたり出したりじゃな。ワシの好きなヤツじゃ。しかし、最後まで逝っちゃいかんぞ」翁の目がエロく光った。
 「お手柔らかに」薫子は、軽くお辞儀した。「ピアノがテーマ始めて下さい。三回テーマ繰り返したら、私から始めます。
 あゆみちゃん、好きに弾いて。テーマではコードチェンジするけれど、即興の部分はモードだから、最初はフレーズの繰り返しでいい。フレーズに流れがあれば、多少、ミスチョイスしても大丈夫よ。神ノ内さん、煽る所は煽って下さい。
 深浦さん、要所でコード出してあげて下さい。じゃあ、ピアノからどうぞ」
 「ふん。ワシに指示出しするか。・・・・まあいい」翁は、速いテンポで弾き出した。
 俺はついて行く。あゆみは、二回目の繰り返しの途中から入った。
 薫子は三回目の頭から入った。忠実にテーマを吹く。
 それだけで分かった。こいつ、この曲を結構吹き込んでいる。
 くそっ。俺は一瞬、頭に来て、薫子を崩してやるつもりで、Tonyの様に、テーマのリズムとは全く異なる譜割のフィルを、隙間に打ち込んでやる。
 薫子は全く動じない。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-02-03 08:29 | 第三話 「紫の指先」