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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第六節の3

 代わりに、薫子のソロになる直前に、あゆみが崩れた。
 ビートが失われそうになる瞬間、薫子の氷のようなソロが流れ出した。
 あゆみはそれをガイドにして帰る。
 薫子、・・・・こいつ、Shorterまで研究していたのか。破綻の無い、音数の少ない、Miles好みのアドリブだ。
 八小節後、翁も右手のシングルトーンで、綺麗なソロを聴かせた。やはり巧い。
 二巡目、薫子は、翁の終わりのフレーズを膨らませて歌った。
 負けずに、翁も薫子の終わりのフレーズを受ける。
 三巡目、薫子は滑らかに、速い、メロディアスなフレーズを紡ぐ。
 翁も、余裕の顔で高速フレーズを繰り出す。
 四巡目、薫子はその終わりのフレーズを使って、スケール練習するかのように高速で転調させる。翁は余裕だ。今度は受けずに、ゆったりと左手で歌わせるようにコードを刻んだ。
 音色、入れるタイミングとも、素晴らしくクールな左手だ。
 ふと、薫子の口の端が少し上がった。そして五巡目、翁に被るように滑り出す。そして、その瞬間、俺の目をチラっと見た。
 やっぱり・・・・。そろそろ行くつもりだな。俺は、息継ぎの間に、少しカウンターを入れてやる。
 あゆみも気づいた様だ。俺の方を見て、カウンターに合わせて、ベースで不協和音をかき鳴らした。
 薫子はそれに乗り、強烈なタンギングで音を粒立てて、アブストラクトなフレーズを吹いた。
 その瞬間、翁は振り返った。明らかに目つきが変わった。
 しめしめ。俺は畳みかける様に大きく煽る。
 翁はバッキングを止めた。
 乗じて、薫子はEric Dolphyの様に、アルトの管全体を大きく鳴らせる。一体、あの細い体の何処から、あの音が出てくるんだ?
 ジイサン、コード入れとかないと、どんどん貴方のコントロール出来ないところに行っちゃうよ。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-02-10 22:00 | 第三話 「紫の指先」