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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第六節の4

 高低を激しく行き来する。強烈なタンギング。凄い。最近の練習では聴いた事のない切れ方だ。
 そして最後、ロングトーンで終わる。
 だが、翁はすぐには出ない。
 薫子の音の余韻が消えるのを待って、引き出した音は、Cecil Taylorの様に、リリカルかつ構造的な音だった。
 うおー、流石。しかし、あのスケベジジイにしては、少し観念的か・・・・。掻き回してみるか。
 俺は、翁が四分の五で弾いている所を捕まえて四分の三でバスドラの連打を入れた。
 翁の右手が揺れた。
 俺は調子に乗って変拍子に割った派手なフィルを回す。
 終わり際に薫子が、読んでいた様に被る。そして六巡目、用意していたようなすべらかな高速フレーズが流れ出した。
 また、翁は振り返った。・・・・さすがに本気になったか。
 翁は、薫子のフレーズの隙間に、少し外した様な合いの手を入れる。少し癖を読んだかの様な入れ方だ。
 だが、薫子はそれも見越していたかの如く、踏みつぶす様にして次のフレーズへ飛ぶ。全く、容赦ない奴だ。
 あれ、そのフレーズだと、八小節越えちゃうぞ・・・・。
 待ちきれないように、翁の右手が高速でシングルトーンの見事なフレーズを弾き出す。うー、真剣モードだな。俺も本気でお付き合いするか。
 このジジイ、一体無幾つの引き出しを持っているんだろう。Bud Powell風のフレーズだけかと思ったら、Cecil Taylorをちゃんと解釈したとしか思えない構造的フレーズ、聴かないと言っていたHarbie Hancockも真っ青なリリカルなフレーズ。
 右手の歌わせ方も良ければ、左手のコード・チェンジの趣味の良さ、時にはベースを補完する気配り。
 俺は、フレーズをバックアップするドラムに切り替えて、今は翁の演奏を楽しんでいた。性格は悪いが、尊敬に値する。
 ジャズ聴きの俺としては、何故、俺が今まで彼のことを知らなかったのかが、不思議だった。これだけの演奏が出来れば、日本ジャズ史上、何枚か、名盤を残すことが出来るハズだ。
 七巡目。続いた薫子も、今回は翁の演奏に敬意を払ったような、落ち着いた演奏をする。
 流石の薫子も、翁の力を認めたのか?
 だが俺は、薫子の目の中に、何かを見越した様な眼差しを感じていた。それはひょっとすると、俺が感じている懸念と同じものじゃないのか・・・・。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-02-17 00:20 | 第三話 「紫の指先」