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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第七節の2

 あゆみも何か感じているようだ。だんだん曲のコツを覚えてきて安定してきた、あゆみに俺は目配せした。俺は、ピアノが入りやすいように、ではなく、煽るように叩いた。
 翁は、ピアノに向かい、少し間を置いて、意を決した様に引き出す。ゆっくりと、確かめながら。
 少し余裕の無い音だが、何々風では無い、誠実なメロディだ。
 左手のコードが上手く補完する。
 演奏が進むにつれ、段々右手も歌ってきた。
 薫子は左足でテンポを刻みながら、それを見る。だが、そこには侮蔑はない。
 また、翁はつっかえた。止まりそうになった時、薫子はマイクを通さず「続けて」と言い、翁も「分かっとるわい」と吐き捨てる様に言うのが微かに聞こえた。
 翁は、フレーズの全体が損なわれないようにリカバリーする。何だ、やれば出来るじゃないか。割り当てられた小節の中で、しっかりした起承転結がある、バランスが良いソロだ。
 恐らく、完璧主義なのだ、このジジイは。だから、思った様に引けなくなった時、リカバリーできないんだ・・・・。
 終わりが近い。薫子がテーマを吹き始める。翁はキメの所でコードを入れる。そして、ユニゾンで再度テーマを吹奏して、余韻を残して終わった・・・・。
 「貴様ら、ワシをハメたな」深浦翁は、右手の甲をさすりながら言った。
 「いや」と俺は言った。
 「どうしてそんなこと言うの。私は、草ちゃんのこと、やっぱり凄いって、見直したけどな。それに、今の演奏はかなり勉強になった」とあゆみは言った。
 薫子は翁に近づき、言った。
 「八小節交換の時の派手なソロよりも、じっくり弾いていた最後のソロの時の方が良いですよ」
 「君のような小娘に評価されたくはない」
 「俺も彼女と同じ様に思いましたけどね」と俺は言った。
 「五〇年代後半、米軍基地でのジャムセッションで名を売ってらっしゃった頃より、さっきの演奏の方がきっと良いですよ。『横須賀のBud Powell』こと、深浦草太郎さん」
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by jazzamurai_sakyo | 2010-03-03 00:29 | 第三話 「紫の指先」