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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第八節の3

 「そうじゃない。そうだなあ・・・・。
 今、想像してみるに、自己批判の強い男と、抑圧された女が演奏する堅い音なんて、まるでナチスだ」
 「まあ、そうかもね。はは。雁字搦めね」
 「俺は、“今の”あゆみみたいな、後乗りの音のベースとはやったことは無かったんだ。硬い奴ばかりで。
 ・・・・そういえば、俺が一緒にやってきたベーシストは、エゴを出せないヤツばかりだった。たぶん全員、今はサラリーマンやってると思う」
 「サラリーマン? はは。面白い」
 「面白くなんか、ないさ。俺は奴らを音で押さえ付けてきた。何も面白くない。・・・・?」
 そうか、俺は予定調和が嫌いだと良いながら、今までやってきたバンドでは、メンバーを押さえ付けてきたんじゃないか?
 理想ばかり求めて、狭いルールを作って、それが音楽の質を高めるために必要だと思ってきた。でも、きっとその切迫した考え自体が、メンバーにとって気詰まりだったんだ。
 俺は今まで、俺を解雇したメンバーに才能が無いと切り捨てていた。実際、一枚だけ出た『南蛮』のCDを聴いても、全く魅力を感じなかった。だが、俺は奴らの良い所を、充分に引き出せていなかったんじゃないか。
 リーダー面して、抑圧して、思い通りに行かないことに苛立って。俺はそれが俺の責任感だと思っていた。
 でも、それはただの義務感だったのかもしれない。
 ふいに俺は、以前見た夢の中で、変態オヤジと黒猫のEricが言っていた、「どのような形式であれ、抑圧に変わる危うさがある」「そして、抑圧には際限がない」という言葉を思い出した。
 「・・・・カミさーん、帰ってきて」あゆみは右手を目の前でひらひらさせた。目が、少しとろんとしている。
 ふん、言おう。
 「俺は薫子に、俺とあゆみでは『気持ち良いと思えるグルーヴが全然違う』と言った。そうしたら薫子は、『私は気持ちの良いグルーヴを求めて一緒に演奏している訳ではない』と言った」
 「・・・・それで」あゆみのグラスが止まった。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-04-07 00:30 | 第三話 「紫の指先」