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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第八節の4

 「そりゃそうだと思った。そして俺は、薫子に『軋轢を楽しむために、君の誘いを受けた』と言った」
 「何それ」
 「そう思わないか。グルーブなんて、放っときゃ良いんだよ。そんなことは、誰か他の奴が気にすることだ。俺達は、音で違う世界に行くために、集まっているんだから」
 あゆみは、少しグラスを傾け、そして、ゆっくり言った。
 「・・・・そうね。その通りだわ。
 私ね、この前のライブ、えらく感動したのよ。演奏する前は、みんな、何か少しずつ傷ついた感じだった。私はヴォイドに会って、酷く緊張していたし。そして始まったら、冬美ちゃんが練習通りに演奏しないでしょ。殆ど、破綻すれすれで、何度も駄目になるかと思った。でも、テンション高く保ちながら、何とか帰って来られた。それも、予想より豊かな地に」
 「そうだな」
 「私あの時・・・・」と、あゆみが言いかけた時、不意に携帯電話が鳴った。
 「・・・・どうぞ」と俺は言った。
 あゆみは番号表示を確認して、それから「別にいい。切っとくわ」と言って、電源を落とした。
 「良いのか。彼氏だろ」と、俺は悪戯っぽく言った。
 「いらない」あゆみはそう言って、グラスを傾けた。
 「別にいい。もう、いらないわ」
 「そうか。・・・・今、言いかけたことは何だった?」
 「何だったっけ。私は馬鹿な女だから、忘れちゃった」
 「何が馬鹿なの」こいつ、時々自己否定に入るんだよな。
 「まず算数が出来ないの」あゆみは少し酔ったのか、壁に凭れて足を組み、鶴亀算から算数、数学が出来なくなったこと、姉の存在、父親との確執、最初の男、影響を与えた年上の女性の事、音楽との出会い、何故ベースを弾くようになったか、等を話した。本当だな、飲むと結構、喋るんだ。
 今までの二人飲みは、リラックスした飲みじゃ無かったのか。
 「鶴亀算は俺も分からなかった。学生時代、短期間だけ公文式学習室でバイトしてたんだけど、鶴亀算が教えられなくって、方程式で教えたら、生徒の親から苦情が来てクビにされたんだ」
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by jazzamurai_sakyo | 2010-04-14 01:13 | 第三話 「紫の指先」