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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第九節の3

 「相棒さんとのご相談は、まだ充分じゃ無いんですね」
 「草ちゃん。ちょっと良いかな」あゆみは言った。「草ちゃんはバッキングも上手いと思うの。どういう風にとは上手く言えないけれど。だから、演奏の中で、自分をどれだけ圧倒的に輝かせるか、じゃなくて、演奏全体を自分のものにして、共演者を活かす演奏と、その中で自分の演奏の魅力は何処なのか、その両方を、どう責任持って常に輝かせるか、っていうやり方が、今の草ちゃんに合っていると思うのよ。その、なんて言うかな、草ちゃんは自分に、右手に義務を課し過ぎていると思うのよ」
 「あゆみは、時々上手いこと言うな」と輝広は言った。「確かに、一歩退いて弾いている時のあんたは、怖い位に良い」
 あゆみの言った責任と義務の話って、この前、飲んだ時に考えていたことに似てるけど、俺、言ったっけ?。
 切れるかと思った翁は黙って右手をさすっていた。気の強い男が、年相応に、少し小さく見えた。
 「さて、お話はこれ位にして、もう一曲やりませんか。“Monk’s Mood”はいかが」と薫子は言った。
 「お嬢ちゃんは、どうもワシをMonk風に矯正しようというつもりらしいが、いらぬお節介だ」
 「いえ。深浦さん風で良いですよ。Bud Powell の『A Portrait of Thelonious』風でも良いですし。お好きにどうぞ」
 そういって、薫子はフルートを持ち出した。
 「まあ、良いわ」深浦翁は、ピアノの前で右手をこすりながら少し考えた後、ゆっくりとそのコードを引き出した。
 井能さんがゆっくりと付いていく。俺は、あまり得意じゃないブラシを引っぱり出した・・・・。
 酒を飲みながら、しっとりと聞き惚れる、という類の演奏にはなり得ないが、リラックスした中に緊張感のある、良い演奏だった。俺は、自分を殺し気味にして、音数を選んだ。
 深浦翁は時折、型に填らないように、かき混ぜようと地団駄踏んだが、要所で良く歌うフレーズを入れた。ブルーな雰囲気だった。
 ・・・・練習が終わって、精算をしている時、俺は「今日は、貸し借り無しですね」と、翁に軽口を叩いた。「まあな」と翁は言い、半額を支払った。
 会計から帰ってきた薫子は、並んで座る翁と井能さんの前に立つと、「深浦さん、井能さん。七月二七日の夜は空いていらっしゃいませんか。ギャラは私が払いますから、この編成でこのライブ、出ていただけませんか」と言い、スタジオの壁に貼ってあるチラシを指さした。
 「・・・・オクトパス・デ・ジャズ?」って何だ。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-05-12 05:12 | 第三話 「紫の指先」