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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第九節の4

 「例の似非ジャズ系イベントさ。今度は、箱が『Stride』なんだ。ジャズ系の箱で、ジャズのイベントだろ。薫子は断るつもりだったんだけど、呼んでた大物がキャンセルになって、時間が空いたからどうしてもと頼まれて弱ってたんだ」と輝広は言った。
 「神ノ内さんは、どうしても都合つけて下さい。井能さんは如何ですか」
 「スケジュールが奇跡的に空いています。リハーサルは無理そうですが。新幹線代は、ベースの席も含めて、別に払ってくれますね。それと、宿泊費用も」と、井能さんは言った。
 冬美と、あゆみは驚かない。さては薫子、俺だけに話を通さず事を運んだな。
 「あゆみ、お前、良い所、薫子に持って行かれたぞ」と俺は言った。
 あゆみは「勉強させてもらうわ」とだけ、言った。
 少し腹が立ったが、俺は薫子に「やるよ」と言った。だが、腹立ちついでに、「ただし、一曲あゆみが歌ってくれるなら」と注文を付けた。
 「え、なんでそうなるの。嫌よ」
 「おまえが出ないで収まると思うのか。この人間関係を作ったのは、おまえだろうが」
 「そんなこと言ったって、ピンで歌ったことなんてないし」
 「あゆみが歌わないんだったら、俺は出ない」と言い切ってみたが・・・・。どう出る?
 「あゆみちゃん、お願いします。今のままじゃ、華やかさが無くて浮きすぎちゃう・・・・」と言った薫子は、井能さんを見て、「ごめんなさい」と言った。
 「じゃあ、おまけ程度に一曲だけよ」
 「宜しくお願いします。深浦さんは?」
 翁は少し渋ったが、薫子が「今までの借りは返さないおつもりですか」と冷たく言ったり、「女の子のお客さんは多いと思いますよ」等と少々甘く言ったりすると、翁は「まあ、ギャラがあるなら出てやっても良い」と言わざるを得なくなった。
 「では、本番まで練習は無しです。選曲と構成は、希望を私に伝えて下さい。後日、やる曲と、簡単な楽譜及び構成表をファックスで送ります。では、本番で」と言い、薫子は覚めた顔で井能さんの電話番号を手帳に収めた後、すっと帰っていった。
 俺は、やられた、という気持ちを感じながら、薫子を見送り、そして、あゆみを飲みに誘った。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-05-19 01:11 | 第三話 「紫の指先」