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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第十節の2

 「彼氏」は、お姉さん抜きで話してみると、軽い人だった。ただ、目つきが怖かった。私は時々席を外して、お姉さんの家に電話したのだけれど捕まらなくて。その時までお酒に免疫が無かった訳じゃなかったけれど、緊張してたせいか、メチャメチャに酔っちゃって。
 ふと目覚めたら、私は凄い頭痛と吐き気に満たされた。そして、見たことも無い部屋で、「彼氏」と二人、裸で寝ていることに気付いたの・・・・。皺くちゃになった服を着て、タクシーに乗った。お腹が妙に熱くて気持ち悪かった。
 家に帰ったら、父親が起きていた。でも父親は、何も言わず、目も合わさず、叩いてもくれなかった。
 私はその時から楽園を失った。電話でお姉さんから「何で遊びに来ないの?」と誘われても、言い訳を見繕って断った。彼女の声に怒りの色が陰っているのが分かっていたから。だって、お姉さんにもらったベース、「彼氏」の部屋に置いてきちゃったんだもん。バレない方がおかしいよね。あんなに親切にしてもらったのに、私はお姉さんを裏切った。会えないよ・・・・。
 何も考えたくなかった私は、母親伝えに父親の言うことを聞いて、受験勉強した。それでもまあ、私学の女子大にしか入れなかったわけ。
 入って分かったんだけれど、女子大って、本当に何にも面白くない所よね。というか、大学って目的もなく入っちゃダメ。
 あの二年間は空虚だった。ただ、ベースだけは続けていた。だって、気付いたの。音楽が無くなったら、私には何も残っていないことに。
 ベースは大学入る前にバイトして買い直した。最初は安いフェンダーのコピーモデルを、一回生の夏と冬の休みのバイトで今のベースを買った。
 軽音楽部に入って、女子大のお嬢様達のコピーバンドで演奏したの。何にも面白く無かったけれど、ためにはなった。時々、他の大学の軽音の男の子との合コンに混ざっては、刺激的な音楽を演っている人を捜した。殆どは女の子をお持ち帰りすることが目的のような、ちゃらけた男の子ばっかりだったけど、時々面白い子もいて、その子の大学に出かけては演奏した。
 その頃から自覚あったのよね、男の趣味が悪いってこと。私、あんなに父親が嫌いなくせに、年上の男に、それも説教好きのオヤジ系に弱いんだ。だから、同年代の大学生なんて、全然好きにならなかった。今から思えば寂しい女子大生だったな。
 親に内緒でアルバイトばっかりして、卒業したら家を出た。殆ど夜逃げに近かった。姉貴は京大卒業した後、院に行って研究者になったから、もう私は親から何も期待されていなかった。
 仕事は、医療関係の会社のアルバイトに滑り込んだ。
 社会人になってからは、ライブハウスに出たりして、色々な人と演奏するようになった。まあ、それで、そのうちヴォイドとも知り合ったってわけ。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-06-02 01:43 | 第三話 「紫の指先」