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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第十一節の2

 「私はそんなことは言いません」
 「そうだろうな。お前も、神ノ内くんもそうはせんだろうな。
 前にも言ったが、アドリヴは一瞬の閃光だ。その光を弱めることは」
 「できない。貴方も、私も、神ノ内さんも。それはその通りです。人生は一瞬の閃光でしかないから。
 でも、それは志をなしえなかった時に萎えてしまう程の弱い光であってはならない。
 あなたはあなたのアイデンティティを守るために演奏をするのですか。それとも、あなたをあなたとする存在の光を、常により強く光らせるために演奏をするのですか」
 薫子はさすりながら、翁の目を貫くように見て言った。
 「完璧でなければ気が済まないのだ」翁も目を逸らさない。
 「あの、その薬指の怪我はどうしたんですか」俺は率直に聴いてみた。
 「格好の悪い話だよ。だから、ワシの口からは言えん。・・・・お嬢ちゃんは知っているのだろう。代わりに言ってやってくれ」
 「良いのですか」「ああ」
 「『ジャズ・ジャーナル』誌、一九六一年五月号の記事によれば、他の女性のことで奥様と口論になり、奥様は衝動的に深浦さんの右手にきつく噛み付き、全治四週間の重症を負わせた。復帰は難しい、とありました」
 「号数と記事内容は合ってる。その頃気に入っていた女と一緒に指輪を買ったのだ。それを右手薬指にしていた。今から考えれば傲慢な話だよ」
 「でも、今でも奥様とご一緒ですよね」
 「ワシはあいつを愛している。それに、あいつがいなければ、ワシは稼ぎのない、ただのごろつきに過ぎなかった。本当に感謝している。あいつは、ワシのジャズメンとしての価値が怪我のためどうなったかを知り、泣いて泣いて何度も詫び、呆然となって死のうともした。だが、この結果を導いたのはワシだ。ワシの馬鹿さがこれを招いたのだ。だから、ワシは・・・・」
 「怪我をハンディキャップと考えたくないと」
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by jazzamurai_sakyo | 2010-06-16 23:31 | 第三話 「紫の指先」