ブログトップ

ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第十一節の4

 今日の持ち時間は、セッティング込み一時間と長かった。ハウス系似非ジャズの次、三番目に出た俺達がやる曲は、五曲。
 箱のせいか、客はおっさんが多かった。洗い晒しの五〇一に、空色のノースリーブを着た薫子は、本当に場違いだ。おっさん達の視線は薫子に集中している。期待と半々の軽視。こりゃ、あんまり良い気分じゃないだろうな。
 気が付けば、輝広と冬美が最前列に座っている。輝広は瓶ビールをラッパ飲みし、冬美は・・・・分厚いマスクをした上に、頭から足の先まで雨合羽を着込んでいる。きっと、煙草対策だな。
 「良いですか」と、薫子が翁に声をかける。
 「おい。客にギャルなんぞおらんじゃないか。・・・・まあ良いが。井能君、行こうか」そして、井能さんがうなずいた瞬間、翁の指がするすると動いて、音の粒を転がした。
 Monkの「Twinkle Twinkle」。これは、井能さんのリクエストだ。テンポはミディアムなのに、フレーズが速い。Monkは下手だと言う奴がいるが、この曲を聴けばそんなことは言えないはずだ。速いテーマに、薫子は遅れずに付いていく。井能さんの太い音に助けられながら、俺も付いていく。客の顔がぱっと明るくなる。
 さあ、薫子のソロ。・・・・な、なんだ?
 Anthony Braxtonのように、ダーティーに、アブストラクトに吹きまくる。少々の逸脱はお構いなしだ。
 薫子は絶対に音を濁さないと思っていた俺は、びびった。
 そして、明らかに殆どの客の顔色が変わった。こりゃ好奇心に対する嫌みだな。
 うーん。このテンポと、このフレーズじゃ、俺は薫子に絡みにくい。等と考えていると、翁もバッキングするのを止めて、薫子を苦々しい顔で見ていた。
 井能さんは余裕だ。俺がおとなしいと見るや、薫子に茶々を入れて楽しんでいる。薫子は動ぜず、ますます露悪的にエスカレートする。吹き終わった時には、殆どの客が引いていた。
[PR]
by jazzamurai_sakyo | 2010-06-30 01:00 | 第三話 「紫の指先」