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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三節 「紫の指先」 第十一節の5

 続いて出る翁は、やりにくそうだった。訥々としたフレーズ。おいおい、らしくないぜ、と思った瞬間、ゴンと不協和音をぶち込んだ。
 おわ。Cecil Taylorのように、十二音階のユニゾンのフレーズを正確に弾いている。スピードで張り合うつもりは無い、と言わんばかりだが、このソロは、地鳴りみたいに響いて、俺のドラムに干渉する。結構怖いぜ。
 ちょっと揺らしてみるか。だが、俺が動いたら、雰囲気が保てないか。俺は翁の演奏に引きずられないように、正確にフォービートを刻む。井能さんは翁の演奏の冷たさを浮き上がらせるように、逆に柔らかい音で、俺に合わせて刻む。
 ふと翁は井能氏の皮肉に気付いたのか、一八〇度転換してモンク風にテーマをアレンジし、映像のコマ送りのように少しづつ色づけを変えていく。
 それは派手ではないが、面白い。こりゃ、Monkも大喜びだな。Monkの曲はコードだけじゃなくて、テーマそのものに相対しないと、活きてこないから。
 このスピードなら、指も問題ないか。
 そして、短いベース・ソロへ。うーん。堅実にまとめたな。
 テーマに帰ってアッサリ終わり。客はまばらな拍手だ。そりゃ、全くまとまりの無い演奏だもんな。
 気付くと、冬美はレインコートの向こうからキツイ目で薫子を見据えている。輝広はやっぱりビールをラッパ飲みしている。
 薫子はつかつかと翁に近寄り、何事か耳打ちする。
 すぐに「それはワシなりの考えでやらせてもらう」と少々怒気を含んだ声がした。ピアノ側の客が退く・・・・。
 薫子の「寂しいので、お願いします」と言う声が聞こえた。
 察するに、ソロの時、バッキングしなかったことを言っているようだ。だが、あのアドリブにどの様なバッキングをしろと言うのか。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-07-14 00:21 | 第三話 「紫の指先」