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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第十一節の6

 そう考えていると、楽器を持ち替えるために後ろを振り向いた視線が俺を射抜き、同時に口が、「手を抜いている訳ではないでしょうね」と動いた。
 そのつもりはないが、俺は素直に「すまん」と言った。今のは少々やられたな。だが、次の曲も、仕掛けるのはそうそう難しい曲なのだが。
 薫子は古いフルートを取り出す。そして、ワン・テンポ置くと回りに声もかけず、いきなり吹き出す。今度は小さな音から始まり、ゆっくりとしたテンポで、アドリブする。張りのある音がしている。少し曲に合わないかもしれない若い音がした。
 だが、妙に雰囲気作りをする必要はない。空間から舞い降りてきた、そのテーマが「You Don’t Know What Love Is」だったとしても。これは俺のリクエストだ。
 一度、ちゃんと聴きたかったのだ。出町柳で、薫子と初めて会った時、あいつはこの曲を吹いていた。小さな音で。
 井能さんがアルコでテーマに寄り添う。薫子は、少し崩して、だが迷うことなく朗々と吹く。
 俺はさして得意ではないブラシを取り出した。
 ドルフィのヴァージョンと違い、ソロはピアノが先だ。
 翁は薫子のフルートがテーマを吹き終わる所にフレーズを被せて滑り込む。上手い!
 薫子はスッと退いた。退いた余韻の中から浮き立つピアノ。
 微かに香るエロス。芯のあるタッチだが、時折内証的な表情を見せて、その「ゆれ」が聴いている俺の心をぐらぐらさせる。
 やっぱり、左手が良い。右手に優しく寄り添う。
 じじい、やっぱりこんなピアノが弾けるじゃないか。
 ひょっとすると、右手が若く戸惑う人で、左手が諭す女だ。この曲はミュージカルの曲で、男に対して女は、「激しく心を燃え上がらせて、そして全てを失うまで、愛とは何か解りはしない」と歌う。それを、両の手で弾いている。うーん。これじゃ、俺は干渉できない。仕方ない。スネアを歌わせるか。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-07-21 21:33 | 第三話 「紫の指先」