第三話 「紫の指先」 第十一節の7
ふと見ると、薫子は呆れたような、感心するような顔をして翁を見ていた。自分のテーマへのアプローチを否定されたと感じたのかな。
さて、翁のソロが終わりに近づき、破綻なく仕上がりそうだ。余程弾き込んできたのかな。薫子はどうする。
被せずに出た。うん。良く鳴らしてる。上手いな。
そして、翁の曲解釈などお構いなしと言わんばかりに、無邪気なフレーズを吹いた。
そこへ翁が暗いコードを、トン、と入れる。
薫子はちょっと自虐的な明るさで離れる。
翁は、薫子のフレーズをなぞって捕まえる。
一転して薫子は脈絡のない早いパッセージを入れて、ますます離れようとする。そして、例の強烈なタンギングで、行ったり来たりする。コードの枠ぎりぎりだ。翁は、手を止めている。困った俺はふと、井能さんを見ると、彼は笑いながら、堅実に弾いていた。
ふん。押すしかないか。俺は、少々ブラシを乱暴に使って、薫子をプッシュした。その部分はAメロの最後部分だ。
すると翁が左手で低く、「You Don’t Know What Love Is」、とフレーズを入れた。
すると、薫子はBメロに入るところで、少し湿った音に変わり、内証的なフレーズを吹き始める。告白するもののように。
黒めにサポートする翁。途端にフルートは哀愁を帯び始める。テーマに合った演奏だ。
珍しく切なく吹いている。ここの歌詞は「失恋した心は、思い出が蘇るのを恐れている/涙を味わった唇は、キスの味が判らなくなる」だ。
さて、翁のソロが終わりに近づき、破綻なく仕上がりそうだ。余程弾き込んできたのかな。薫子はどうする。
被せずに出た。うん。良く鳴らしてる。上手いな。
そして、翁の曲解釈などお構いなしと言わんばかりに、無邪気なフレーズを吹いた。
そこへ翁が暗いコードを、トン、と入れる。
薫子はちょっと自虐的な明るさで離れる。
翁は、薫子のフレーズをなぞって捕まえる。
一転して薫子は脈絡のない早いパッセージを入れて、ますます離れようとする。そして、例の強烈なタンギングで、行ったり来たりする。コードの枠ぎりぎりだ。翁は、手を止めている。困った俺はふと、井能さんを見ると、彼は笑いながら、堅実に弾いていた。
ふん。押すしかないか。俺は、少々ブラシを乱暴に使って、薫子をプッシュした。その部分はAメロの最後部分だ。
すると翁が左手で低く、「You Don’t Know What Love Is」、とフレーズを入れた。
すると、薫子はBメロに入るところで、少し湿った音に変わり、内証的なフレーズを吹き始める。告白するもののように。
黒めにサポートする翁。途端にフルートは哀愁を帯び始める。テーマに合った演奏だ。
珍しく切なく吹いている。ここの歌詞は「失恋した心は、思い出が蘇るのを恐れている/涙を味わった唇は、キスの味が判らなくなる」だ。
by jazzamurai_sakyo
| 2010-07-28 01:21
| 第三話 「紫の指先」