ブログトップ

ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第十二節の4

 俺はアプローチを変えて、プッシュしてやる。まるで示し合わせたかのようだな。
 いや、違う。恐らく、翁は薫子を認めたな。だから、導かれる所に行こうとしているのではないのか。だが、薫子の性格からして、それはなかなか困難なお付き合いだぞ・・・・。
 三順目、改めて曲に向き直ったように、音を選ぶ薫子。この曲の使える音は広い。噛み締めるように付き合う翁。
 やるな。俺はハイハットを開いて連打し、リズムを広げる。
 四順目、曲想を裏返したかのように、上下に動くフレーズを正確に吹く薫子。お前はひょっとしてMilesのモード研究も相当やったんじゃないのか。
 続いて、素早い指使いで上下に飛ぶ翁。跳ねてるけど、きつくないか?
 俺の心配は当たった。終わり間際に右指がつっかえたのだ。
 俺はかき消すようにフィルを入れる。
 五順目、薫子は容赦なく高速フレーズを紡ぐ。引き離しにかかるのか。とにかく、凄い。例のタンギングで、くっきりとした音列が、バンバンバンと、まるで連打のように効いてくる。俺は合わせて畳み掛ける。井能さんのベースが唸った。
 さて、翁の紫の指先はどうする・・・・。
 心配は無用だった。翁は薫子のフレーズの尻尾に乗って、加速する。
 さては、Harbieを相当研究したな・・・・。新感覚派は嫌いじゃなかったのか?
 等と考えている暇は無かった。本当に速い。こんな細かい譜割で弾ききれるのか・・・・。
 と思った瞬間、外した!中途半端な所で。
 俺はフォローせず、逆に崩しにかかる。今は喰い合う時だ。
 だが、翁は音が混濁し、分断しかかるのも恐れず、躊躇せず弾き切る。フレーズは説得力を無くさない。そして、冷静に左手の連続に変化するコードを挟んで、次のフレーズに行く。
 背中が落ち着いている。
 薫子は何も気にせず六順目に向かい、一層大きな音で紡ぐ。
 何処で仕掛ける?
 俺に翁を心配して、迷っている暇は無い。薫子の前では。
[PR]
by jazzamurai_sakyo | 2010-10-20 01:46 | 第三話 「紫の指先」