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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第十三節の2

 テーマが終わり、薫子が飛ぶ。リードがカンカンカンカンとなる音が聴こえるかの如く、音は粒立ち、一つ一つが力を持つ。明るく、クリアーに、放たれる。
 “The Sorcerer”での演奏が、まるでウォームアップだったかのように、俺のど真ん中に投げ込む。
 俺は必死だ。勿論、スウィングなんて無理だ。ただ、フォービートを維持するだけだ・・・・。
 でも、ええい、失敗を恐れてはいられない!
 今日、一番、やれてないのは、俺だからだ。
 “ハプニングを上手く使って、違う世界に飛び込みませんか”と薫子は言った。そうするよ。幸いベースが堅実だ。井能さんを頼りに、恐れず突っ込んで行こう。
 トーン、と、ピアノの音がした。そして、コロコロとアルトにクロスする。
 薫子は、くすぐられる様に、それを可愛がる。翁は、あえて速さを捨てて、薫子と遊ぶつもりかな。
 俺は、それを隙と捉えて、リムショットの連打を打ち込む。
 だが、薫子は、低くブローして俺をあしらう。
 そして高低のフィールドを自由に交換して、思いっきり前へ蹴り飛ばす。
 くそ。無視されているのではないことは分かっているが、その乱されない姿勢を、俺は少し腹立たしく感じていた。
 俺がこんなに必死でやっているのに、こいつは何故、何時も独りで、甘えを排して、媚びることなく、立っているのだろう。
 俺は、薫子を追いかける。そして、ノースリーブの背中を見つめる。痩せている、と思ったけれど、華奢ではない肩だ。
 そのきれいな肩の筋肉が、感性を飛翔させるために、熱を帯びているのが分かる。あいつは複雑なフレーズを吹き切るのに、身体をくねらせたりはしない。凛とした背中は、目的のために最少の力で、最高の音を出すためにだけ、鍛えられているのだろう。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-12-01 23:52 | 第三話 「紫の指先」