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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第十三節の3 (ちょっと改編)

 冷たく高速の即興のまま、二コーラス目に入る。薫子は息切れ一つしない。翁は相変わらず、可愛くフォローする・・・・。
 が、突然、俺の方を振り向いて、左目でウインクする。
 そして、トンと不協和音を響かせる。
 俺は、乗じて喧しくタムを打ち鳴らす。
 あいつを混乱させる気は無いが、ジャズ・ドラマーはバックミュージシャンじゃない。ジャズは食い合いだ。
 食われたままで終われるか!
 薫子が振り返る。口元が笑っている。あいつはやる気だ。ピンマイクはアルトの口に付いている。
 だから、吹く向きはお構いなしだ。
 目が俺を捕らえる。鼻腔が小さく広がり、大きく吸い込むのが分かる。
 最前列の、冬美の冷たい顔も見える。薫子を凝視する眼差しが、俺も突き刺している。
 輝広とあゆみも俺たちを見ている。
 薫子の頬が少し膨らんだり縮んだりする。
 凄い音量で、こんな速いフレーズを吹いているのに、顔色は変わらない。とても、慎ましやかに仕事している。
 俺は今、あいつの考えていることの十六分の一音符単位、出来ればその半分の範囲の遅れで、共感し、出来れば、先手を打ちたいと思う。
 だが、四分の一小節は感覚が遅れている。
 フォローして、プッシュしてやるだけじゃダメだ。
 俺に着いて来いよ!/と誘ってもあいつは振り向かない。
 そのフレーズは中途半端だよ!/どっからそのフレーズ持ってきた!くそ、最高じゃないか!
 これで行け!/だが、あいつはそれを踏み台にする!
 俺達の距離は少しずつ縮まる。/追いつくことができない。
 ああ、あいつは何なんだ。凄い。
 俺はプッシュしてやることしか出来ないのか・・・・。
 と思った時だった。
 フレーズの最後、リードがコントロールを失って、高く呆けた音を出した。意を決したように、長くそれは放たれる。
 井能さんの太い音で俺は自分を取り戻す。
 翁が重いコードをぶち込む。
 おれは、精一杯鋭く、フィルインする・・・・。
 しまった!小節の終わりだ。次はピアノ・ソロだ。
 だが、俺は次の仕掛けに入っている。
 翁が振り返る。「そのまま、行っとけ!」と唇が動く。
 井能さんの右手がベースのネックを握って止まった。
 ・・・・薫子が俺の正面に来て、向けた人差し指を上に振った。「行け」という意味だ。
 ・・・・ここまで詰められちゃ、行くしかないね。
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by jazzamurai_sakyo | 2011-01-05 23:22 | 第三話 「紫の指先」