第三話 「紫の指先」 第十五節の3
「俺もそう思う。破綻すれすれの一発勝負。結局、ジャズの魅力はそれだよ。それを再認識した翁は、怖いものなしだな。
あの音は、熱いから、きっと音楽で飯が食えるようになるよ」
「ふふ」「なに?」
「カミさんも相当よ」「そうかな」
「ちょっと良い?」
「何?」を訊くつもり?
「あのね。私が日頃、どんな音楽を聴いて、演奏しているのかなんて、あの人には関係なかった。あの人の好みの型にはまった私を好んだだけで、ライブハウスでベースを弾くような私は好きじゃなかったのよ」「そう」
「でも、私は本当と思える喜びを知ってしまった」
「うん」そうだろうな。
「だから、・・・・もう、帰れないんだ」
俺は、あゆみを見た。憑き物が落ちた顔があった。
俺は、「お前、また歌えよ。歌、良いよ」とだけ言い、照れ隠しにあゆみの肩をポンポンと叩いた。そして、俺達は飲み続けた。
「お、今からバンドネオンを入れて、オリジナルを演奏するってさ」「へえ」
「ふんふん。このオリジナルはマシだな。こんなのもっとやれば良いのにな」
「きゃははは」「何がおかしい」
「音楽バカね、カミさんは。それとも、私に気を使ってる?」
「そういう訳ではないが・・・・」
「バレバレよ。面白いわあ。
ねえ、私もさ、バレてると思うけど、伸びては縮むバンドネオンみたいに、気持ちが行ったり来たりで、安定しないのよ。
・・・・これ以上、バンドにいると、迷惑がかかると思う」
あゆみは目を伏せて、言った。
おっと、まだテイク・オフしてなかったか。
「似合わないから、自分をクサすのも大概にしろ。終いには怒るぞ。・・・・そうだな、落ち込んだ時は、この前アンコールで歌ったように、『何時でも電話して。君には友達がいるんだから』」
俺はそう言って、あゆみの頭を軽くポンポンと叩いた。
「・・・・じゃあ、カミサンも携帯電話、持ってよ」
「俺は、そんなもんに使う金ないよ。個人練習で出かけてる時以外は、夜は殆ど家にいるから」
「分かった。何時でも良いのね」
「・・・・やっぱり深夜二時以降は非常事態だけにしてくれ」
あの音は、熱いから、きっと音楽で飯が食えるようになるよ」
「ふふ」「なに?」
「カミさんも相当よ」「そうかな」
「ちょっと良い?」
「何?」を訊くつもり?
「あのね。私が日頃、どんな音楽を聴いて、演奏しているのかなんて、あの人には関係なかった。あの人の好みの型にはまった私を好んだだけで、ライブハウスでベースを弾くような私は好きじゃなかったのよ」「そう」
「でも、私は本当と思える喜びを知ってしまった」
「うん」そうだろうな。
「だから、・・・・もう、帰れないんだ」
俺は、あゆみを見た。憑き物が落ちた顔があった。
俺は、「お前、また歌えよ。歌、良いよ」とだけ言い、照れ隠しにあゆみの肩をポンポンと叩いた。そして、俺達は飲み続けた。
「お、今からバンドネオンを入れて、オリジナルを演奏するってさ」「へえ」
「ふんふん。このオリジナルはマシだな。こんなのもっとやれば良いのにな」
「きゃははは」「何がおかしい」
「音楽バカね、カミさんは。それとも、私に気を使ってる?」
「そういう訳ではないが・・・・」
「バレバレよ。面白いわあ。
ねえ、私もさ、バレてると思うけど、伸びては縮むバンドネオンみたいに、気持ちが行ったり来たりで、安定しないのよ。
・・・・これ以上、バンドにいると、迷惑がかかると思う」
あゆみは目を伏せて、言った。
おっと、まだテイク・オフしてなかったか。
「似合わないから、自分をクサすのも大概にしろ。終いには怒るぞ。・・・・そうだな、落ち込んだ時は、この前アンコールで歌ったように、『何時でも電話して。君には友達がいるんだから』」
俺はそう言って、あゆみの頭を軽くポンポンと叩いた。
「・・・・じゃあ、カミサンも携帯電話、持ってよ」
「俺は、そんなもんに使う金ないよ。個人練習で出かけてる時以外は、夜は殆ど家にいるから」
「分かった。何時でも良いのね」
「・・・・やっぱり深夜二時以降は非常事態だけにしてくれ」
by jazzamurai_sakyo
| 2011-09-07 20:00
| 第三話 「紫の指先」