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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第三話 「紫の指先」 第十五節の3

 「俺もそう思う。破綻すれすれの一発勝負。結局、ジャズの魅力はそれだよ。それを再認識した翁は、怖いものなしだな。
 あの音は、熱いから、きっと音楽で飯が食えるようになるよ」
 「ふふ」「なに?」
 「カミさんも相当よ」「そうかな」
 「ちょっと良い?」
 「何?」を訊くつもり?
 「あのね。私が日頃、どんな音楽を聴いて、演奏しているのかなんて、あの人には関係なかった。あの人の好みの型にはまった私を好んだだけで、ライブハウスでベースを弾くような私は好きじゃなかったのよ」「そう」
 「でも、私は本当と思える喜びを知ってしまった」
 「うん」そうだろうな。
 「だから、・・・・もう、帰れないんだ」
 俺は、あゆみを見た。憑き物が落ちた顔があった。
 俺は、「お前、また歌えよ。歌、良いよ」とだけ言い、照れ隠しにあゆみの肩をポンポンと叩いた。そして、俺達は飲み続けた。
 「お、今からバンドネオンを入れて、オリジナルを演奏するってさ」「へえ」
 「ふんふん。このオリジナルはマシだな。こんなのもっとやれば良いのにな」
 「きゃははは」「何がおかしい」
 「音楽バカね、カミさんは。それとも、私に気を使ってる?」
 「そういう訳ではないが・・・・」
 「バレバレよ。面白いわあ。
 ねえ、私もさ、バレてると思うけど、伸びては縮むバンドネオンみたいに、気持ちが行ったり来たりで、安定しないのよ。
 ・・・・これ以上、バンドにいると、迷惑がかかると思う」
 あゆみは目を伏せて、言った。
 おっと、まだテイク・オフしてなかったか。
 「似合わないから、自分をクサすのも大概にしろ。終いには怒るぞ。・・・・そうだな、落ち込んだ時は、この前アンコールで歌ったように、『何時でも電話して。君には友達がいるんだから』」
 俺はそう言って、あゆみの頭を軽くポンポンと叩いた。
 「・・・・じゃあ、カミサンも携帯電話、持ってよ」
 「俺は、そんなもんに使う金ないよ。個人練習で出かけてる時以外は、夜は殆ど家にいるから」
 「分かった。何時でも良いのね」
 「・・・・やっぱり深夜二時以降は非常事態だけにしてくれ」
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by jazzamurai_sakyo | 2011-09-07 20:00 | 第三話 「紫の指先」