第二話 「青い光」 第2節の1
二
「お疲れさまです。二時間で、千二百円です」
「明後日の日曜日、同じ時間帯に、また個人練習を予約したいんですけど」
「十二日は・・・・、スミマセン。開けから夜まで、全部詰まってます。十一時から十二時までなら、空いてるんですが」
「・・・・いや、いいです。月曜日、今の所、空いてる時間は?」
個人練習は、前日にしか予約できないのが面倒くさい。
「夜は、・・・・まだ空いてますね。明日、電話下さい」
「ありがとう」俺は、三点セットを抱えて、スタジオを出た。
空気が湿っぽい。早く帰らないと、やばいな。
苛つきながら、俺はマウンテンバイクのスタンドを蹴った。
・・・・五月三日のライブ以後、『癩王のテラス』は練習をしていない。連休明けに、あゆみからの電話で練習の日程を知らされるはずだったが、知らされたのは練習の延期だった。
「延期の理由は? 薫子は何か言ってなかったか」
「考えたいことがあるからって。後は、自分で訊いてみたら」
「・・・・あゆみ、訊いてくれよ」
「何?恥ずかしいの?」
「女子高生となんて、あまり喋ったことがないからな」
「この前のライブで濃密に喋ってたじゃない・・・・。
まあ、いいわ。今から、あの店で奢ってくれたら、訊いてあげても、いいけど」
「十時過ぎてるぜ」
「春の夜はこれからよ」
それから俺達は、あのモヒカンの兄さんの店で、少しだけ飲んだ。その時、あゆみは、他の三人のことを少し話した。
薫子の両親は薫子が中学生の時に、事故で亡くなっているらしい。父親は開業医だった。今、薫子は、親の遺産、生命保険金、診療所の賃貸費用で生活している。家は、「医者の割には大きくないけど、一軒家。家の中でサックスを鳴らしても、文句は言われたことない位」の広さだという。
冬美は、ある会社の社長の息子だという。母親似の冬美は、父親から溺愛されて育った。ヴァイオリンは三歳から習っていて、コンクールの常連だというが、あゆみはそれがどんなコンクールだか知らなかった。
輝広は、広島県出身で京大の院生。学費は奨学金、生活費は家庭教師のバイトで稼いでいる。だから、部屋は吉田山の安下宿。サックスは大学に入ってからで、練習は西部講堂の前。 ギターの練習は、アンプにヘッドフォンを突っ込んで。
「あまり言わないけど、時々、カオルンにご飯奢ってもらってるみたいよ」
「嘘だろ」
「その代わり、準夜漬けで試験のヤマを教えるんだって」
「なんだ準夜漬けって」
「カオルンは試験の前日であろうと、深夜までは勉強する気はないそうよ。周りからバカにされない程度の点数があれば良いんだって」
薫子と冬美の高校生活は、どのようなものなのだろう。
・・・・恐らく、居心地は良くないに違いない。
「お疲れさまです。二時間で、千二百円です」
「明後日の日曜日、同じ時間帯に、また個人練習を予約したいんですけど」
「十二日は・・・・、スミマセン。開けから夜まで、全部詰まってます。十一時から十二時までなら、空いてるんですが」
「・・・・いや、いいです。月曜日、今の所、空いてる時間は?」
個人練習は、前日にしか予約できないのが面倒くさい。
「夜は、・・・・まだ空いてますね。明日、電話下さい」
「ありがとう」俺は、三点セットを抱えて、スタジオを出た。
空気が湿っぽい。早く帰らないと、やばいな。
苛つきながら、俺はマウンテンバイクのスタンドを蹴った。
・・・・五月三日のライブ以後、『癩王のテラス』は練習をしていない。連休明けに、あゆみからの電話で練習の日程を知らされるはずだったが、知らされたのは練習の延期だった。
「延期の理由は? 薫子は何か言ってなかったか」
「考えたいことがあるからって。後は、自分で訊いてみたら」
「・・・・あゆみ、訊いてくれよ」
「何?恥ずかしいの?」
「女子高生となんて、あまり喋ったことがないからな」
「この前のライブで濃密に喋ってたじゃない・・・・。
まあ、いいわ。今から、あの店で奢ってくれたら、訊いてあげても、いいけど」
「十時過ぎてるぜ」
「春の夜はこれからよ」
それから俺達は、あのモヒカンの兄さんの店で、少しだけ飲んだ。その時、あゆみは、他の三人のことを少し話した。
薫子の両親は薫子が中学生の時に、事故で亡くなっているらしい。父親は開業医だった。今、薫子は、親の遺産、生命保険金、診療所の賃貸費用で生活している。家は、「医者の割には大きくないけど、一軒家。家の中でサックスを鳴らしても、文句は言われたことない位」の広さだという。
冬美は、ある会社の社長の息子だという。母親似の冬美は、父親から溺愛されて育った。ヴァイオリンは三歳から習っていて、コンクールの常連だというが、あゆみはそれがどんなコンクールだか知らなかった。
輝広は、広島県出身で京大の院生。学費は奨学金、生活費は家庭教師のバイトで稼いでいる。だから、部屋は吉田山の安下宿。サックスは大学に入ってからで、練習は西部講堂の前。 ギターの練習は、アンプにヘッドフォンを突っ込んで。
「あまり言わないけど、時々、カオルンにご飯奢ってもらってるみたいよ」
「嘘だろ」
「その代わり、準夜漬けで試験のヤマを教えるんだって」
「なんだ準夜漬けって」
「カオルンは試験の前日であろうと、深夜までは勉強する気はないそうよ。周りからバカにされない程度の点数があれば良いんだって」
薫子と冬美の高校生活は、どのようなものなのだろう。
・・・・恐らく、居心地は良くないに違いない。
by jazzamurai_sakyo
| 2008-10-08 23:22
| 第二話 「青い光」