第二話 「青い光」 第8節の1
八
その喫茶店に入るのは、何年ぶりだろうか。同志社大学の今出川キャンパスの西門に、烏丸通りを挟んで対面している、その古い木造の喫茶店「びすけっと」は、何時も昼間は、同大生がコーヒー一杯で本を読んだり、レポートを書いたり、学校関係者が優雅に昼食を摂ったりと、差詰め同大の喫茶部の様だ。
今は、春の夕方の落ち着いた光線が店内にわずかに入り込むだけで、客もまばらだった。
その奥のテーブルに、薫子は独り、制服のまま、座っていた。
隣の席には、ご愛用のカバン、テーブルの上には、カフェオレのカップ、三島由紀夫の『天人五衰』の文庫本、同じサイズのブルーの手帳が置かれていた。
席の横には、睡蓮鉢があった。白地に濃い藍色のラインが入った鉢の中で、赤と黒の金魚が二匹、ゆっくりと泳いでいる。薫子は俺が目の前に立つまで、その金魚を見ていた。
「学校の帰りか?」俺は声をかけた。
「そう」薫子は、少しだけ驚いた様で・・・・、すぐにいつもの冷静な顔をした。夏の制服は半袖で、睡蓮鉢と同じ配色だった。細く伸びた腕が白い。
俺も店員にカフェオレを注文した。
坂本さんとイベント出演の打ち合わせをするため、薫子と俺とあゆみは、この店で待ち合わせた。
“underground garden”は此処から歩いてすぐだった。待ち合わせの時間だが、「あゆみは?」
「今日ね、私に任せるって」
「そうなのか?」
「はい。なんか、お腹痛いって言ってました」
「あいつ、・・・・身体弱そうには見えないが」
「あゆみちゃんは、結構、神経質ですし。気遣いが激しくて、お腹にくるタイプかな。生理痛もキツイらしいし」
「ふーん」
そういえば、俺は今まで女性とバンドを組んだ経験がない。
そういう体調のユレが、バンドの運営に微妙に影響する可能性があるなんて、今まで考えたこともなかった。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょう」薫子は少し笑って言った。
その喫茶店に入るのは、何年ぶりだろうか。同志社大学の今出川キャンパスの西門に、烏丸通りを挟んで対面している、その古い木造の喫茶店「びすけっと」は、何時も昼間は、同大生がコーヒー一杯で本を読んだり、レポートを書いたり、学校関係者が優雅に昼食を摂ったりと、差詰め同大の喫茶部の様だ。
今は、春の夕方の落ち着いた光線が店内にわずかに入り込むだけで、客もまばらだった。
その奥のテーブルに、薫子は独り、制服のまま、座っていた。
隣の席には、ご愛用のカバン、テーブルの上には、カフェオレのカップ、三島由紀夫の『天人五衰』の文庫本、同じサイズのブルーの手帳が置かれていた。
席の横には、睡蓮鉢があった。白地に濃い藍色のラインが入った鉢の中で、赤と黒の金魚が二匹、ゆっくりと泳いでいる。薫子は俺が目の前に立つまで、その金魚を見ていた。
「学校の帰りか?」俺は声をかけた。
「そう」薫子は、少しだけ驚いた様で・・・・、すぐにいつもの冷静な顔をした。夏の制服は半袖で、睡蓮鉢と同じ配色だった。細く伸びた腕が白い。
俺も店員にカフェオレを注文した。
坂本さんとイベント出演の打ち合わせをするため、薫子と俺とあゆみは、この店で待ち合わせた。
“underground garden”は此処から歩いてすぐだった。待ち合わせの時間だが、「あゆみは?」
「今日ね、私に任せるって」
「そうなのか?」
「はい。なんか、お腹痛いって言ってました」
「あいつ、・・・・身体弱そうには見えないが」
「あゆみちゃんは、結構、神経質ですし。気遣いが激しくて、お腹にくるタイプかな。生理痛もキツイらしいし」
「ふーん」
そういえば、俺は今まで女性とバンドを組んだ経験がない。
そういう体調のユレが、バンドの運営に微妙に影響する可能性があるなんて、今まで考えたこともなかった。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょう」薫子は少し笑って言った。
by jazzamurai_sakyo
| 2009-01-28 00:54
| 第二話 「青い光」