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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第10節の2

 だが、俺は「でも、恐らくあいつは『癩王のテラス』を嫌いにはならないと思うぜ」と言った。
 「何故?」興味無さそうに聴いていた薫子が、突然訊いた。
 「今日、あいつは必ず“underground garden”に来る。そして、新曲を聴いて、メロメロになるからさ」
 「メロメロって・・・・」あゆみは、困った顔をして薫子を見た。
 薫子はクスリと笑った。「自信がありそうね」
 「あいつは薫子にただ喰われていたに過ぎないが、前のライヴで初めてそれを知ったんだ。だが、あのひねくれ者の音楽好きは只の酔狂じゃない。必ず、確認にやってくる。それに自分が喰われるだけなのか、対峙すべきなのかを」
 薫子は、真っ直ぐに俺を見た。
 その時、突然あゆみの携帯が鳴った。
 「ねえ、時間が変に空いてるから、今リハーサルどうかって、坂本さんが言ってるんだけど。冬美ちゃんいないから、断る?」
 「冬美はどうした?」俺は眼を離さずに、薫子に訊いた。
 「お墓参り」薫子は、すっと、そう言った。
 俺は理解できなかった。黒猫の死体を鴨川に投げ入れたお前が、何故、墓参りを受け入れられるのか?
 死体は蛋白質、脂肪、カルシウムの固まりであって、それ以外のものではない。その感覚が、お前だろう?
 「私に訊かないで」と、薫子は無感情に言った。
 そして、少し間を置いてから、あゆみが「仕方ないじゃない。冬美ちゃんの家は、ああいう家だし、家に左右されることはあるよ」と言った。
 「家の儀式なのか」なら仕方ないが・・・・。
 「行こう」と薫子は言った。「これからはライブも増えるから、ぶっつけ本番みたいな場合もあるかもしれない」
 「五人もいれば、今日みたいに、誰かがいない状態でのリハは増える。これも練習のウチだな」と輝広は言った。
 あゆみは「うん」と言って、ベースを握った。
 俺はそれ以上は何も言わなかった。手筈は全て決めてあった。リハで冬美がいなくても、ミキサーに注文することは決まっていたし、慌てる必要は何も無かったから。
 リハは、思ったより時間が取れて良かった、俺に関しては。ただ、「新曲」全体を通しては演奏できなかったし、何より、薫子は歌詞を歌わなかった。
 俺は薫子の言動が何か腑に落ちなかった。
 「歌詞は出来ているのか?」と、俺は片付けながら訊いた。
 「答えなきゃいけない?」薫子は、きつい目をして言った。
 少しカチンと来た。「良いよ。演れば分かることだ」
by jazzamurai_sakyo | 2009-03-25 02:13 | 第二話 「青い光」

by jazzamurai_sakyo