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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 おい、あんた、と言われて俺はさすがにムッとした。そして、黙ったまま、冬美を睨んだ。だが、奴は意に介した向きもなく、リュックを担いで、ヴァイオリン・ケースを手に持った。
 腹の立つ奴だ・・・・。
 「こんな時間まで外にいて、ご両親はお坊ちゃまの事が心配じゃないのかい」
 「うちの親父の代わりに説教してくれるのかな、オッサン。そっちこそ目がトロンとしてるよ。あんまり飲み過ぎて、町で喧嘩してギャング共に殺られんなよ。
 じゃあ、薫子、バイバイ」
 そう言って、冬美はエレベーターホールに出ていった・・・・。なんて口の悪いガキだ。
 「初対面の挨拶が、これかよ」
 「まったく、いけ好かないガキだ、とか、思ってます?」
 薫子は冬美を見送ったまま、そういった。
 「ああ、ホント、最悪だ。・・・演奏は、背筋が凍る位に良かったけれどな」
 「冬美ちゃんの演奏を、良いと思うの?」薫子は振り返って言った。
 質問しているくせに、確信を持っている目だ。
 「クラシックの基礎を、ちゃんとやった音だろ、あれ。かなり上手いな。あんなに情感のない、鋭い演奏はなかなか聴けないぜ。ブルージーな所も全くなかったしなあ。ミンガスが生きてたら、奴とは絶対やらないだろうな」
 「やっぱり、分かったんですね、あの曲。・・・・うちのこと、気に入りました?」
 「ああ。四人とも音が個性的な所が気に入った。性格は、みんなトコトン悪そうだがな」
 「性格は、神ノ内さんも、たぶん悪いのでは。うちのメンバーはみんな毒舌なんです。容赦がないの。まあ、演奏だって、同じ様なもんだけど・・・・。上手く合わせようなんて気持ち、みんな全然、そんな気ないんだから。
 で、どうでしょう。一緒にやる気はありますか?」
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by jazzamurai_sakyo | 2008-03-26 01:25 | 第一話 「黒猫は踊る」
 そんな猜疑心が生まれる反面、この笑うしかない展開に酔わされかけていた。
 「・・・・そうだな。俺が君を支配しなくて済むならば、やれると思う」、そう答えて、俺は姉さんの肩を叩いて、「そうだよね」と言った。
 姉さんは「え、何」と言って、輝広に訊いた・・・・。
 「ああそう。薫子も同じ様なこと言ってたぜ。『彼が、音楽の場の全ての表面的な構築の責任から解放されて、他人の音を楽しみ、共に想像する神秘を共有できれば』、とかなんとか」
 ふうん、と、俺は一旦その話をあしらった。
 その後、あゆみから“ちゃーるず・みんがすって、どんな人”と訊かれ、二十分位、その話で時間が過ぎた。
 結果的に“その男は、リベラリストで、変人で、兎に角、ベースで他人と会話することと、バッキングの演奏でもソロを演じていると同じ位存在感のある音を出すことに関しては、今でも世界で一番のベーシストだ”という結論に至るまで、長々と自説を披露してしまった。
 「カミさんって、良く知ってるなあ。ミンガスって、良い男だなあ。私、カオルンから、ちゃんと聞いとけば、今日、もっと楽しかったのになあ。次は、もっとちゃんと、ミンガス役やろうっと。ね、そのためにも、何か良いCD、貸して下さいよお」
 と、あゆみは言い、「ねえ、次は、ビール以外の飲まない?」と言って、種類の限られた、そのメニューを食い入った。
 ・・・・俺は、その宴会が始まった一時間弱位の時点で、酔いが四速目くらいに入ったようだった。トイレに行って帰る途中、ふと見ると、店の出口で“冬美”と呼ばれた少年が靴を履いていた。
 “薫子”がその横に腕組みをして立っていた。その後ろ姿は、あの大きな音に比べて華奢に見える。
 「冬美ちゃん、だったっけ。帰るのかい?」
 「見りゃ、分かるでしょ。酔っぱらいは嫌いだし、飲み会のたばこ臭いのが何より嫌だ。ヴァイオリンが腐ってしまう」
 「冬美ちゃんは積極的には飲まないしね」
 「おい、あんた、『癩王のテラス』でやるのか」
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by jazzamurai_sakyo | 2008-03-19 02:40 | 第一話 「黒猫は踊る」
 少し気になる点はあった。どんなオリジナルをやっているのか、タメのあるベースと俺のドラムが合うのか、など。
 生中を飲みながら、そんなことを虚ろに考えていると、いきなり、あの露出度の高い姉さんがやってきた。
 「あー、神ノ内さん。今日、観てくれましたあ。私、『癩テラ』の橘ですう。握手ねえ、ブンブン。
 あのう、カオルンがあ、『神ノ内さんって、絶対、お酒好きだよ』って、言うんですけど、ホントですかあ?」
 訊いてるお前がかなり酔ってるぜ。
 「ああ、酒は好きだな。ワリカン負けはしないぜ」
 「ホント?実はうちのバンド、飲む人ばっかりなんですう。カオルンは、時々しか飲まないんですけど、でも、酔っても、あんまり、分かんないんですう」
 ・・・・高校生が飲んじゃいかんな。「あの子って、“カオル”って、名前なんだ」
 「ううん。カオルコ。“藍王薫子”。私は、“橘あゆみ”。ギターは、“瀧上輝広”。ヴァイオリンは、フユミちゃん」
 「ああ、あの子も女の子だったの?」
 「ううん。フユミちゃんは、男の子だよ。“木陰冬美”って、言うんだ。
 ・・・・ねえ、神ノ内さんって、どんな人。支配したい人、されたい人? 支配するのもされるのも嫌な人?」
 おいおい、そんな深い胸の谷間を見せながら、変なことを訊くなよ、と思っていると、ガタイのデカイ男もやって来て、となりにどすんと腰を下ろし、
 「あんた、神ノ内さん? 俺、瀧上輝広。宜しく」
 と、既に酩酊したような口調で言った。ボサボサの前髪の中で目付きは覚めていた。
  “薫子”と言われた女子高生は、丁度、シェアした座敷の反対側の角で、ヴァイオリンの彼と喋っている。その光景は、はっきり言ってPTAの管轄だ。何故制服なんだ。
 「あんたさあ、最近は、あまり叩いていないんだって?」
 不躾に輝広は言った。
 「ああ。叩いてない。まる二年は叩いてない」
 「そんなんでさあ、うちで、やれるんかなあ」
 いきなりそう訊かれるとは思っていなかった俺は、あの姉さんの方を見た。すると、姉さんは、一心に、中ジョッキのおかわりを店員に頼んでいた。
 この攻撃はなんだ? バカにされているのか。
 そんな猜疑心が生まれる反面、この笑うしかない展開に酔わされかけていた。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-03-12 22:00 | 第一話 「黒猫は踊る」
     五

 最後にベースの姉さんが、他のメンバーから話せと諭された。
 「えー。この曲は、昔のジャズのベーシストで、ちゃーるず・みんがすという人が創った、何とか知事の寓話、という曲ですが。えー。聴いてもらって分かったでしょうが、変な曲なんです。止まってばっかりで。元々、伴奏無しでソロ回しをする曲だそうです。だから、今日は、えー、アイデアの完コピで、す、ね。では、今日はこの曲だけで終わりです。丁度、持ち時間も過ぎました。
 えーっと、カオルン、何だっけ。ああ、そう。
 業務連絡、業務連絡。神ノ内さーん。来てたら、打ち上げに来てください。帰らないようにねー。えっと、カオルンだけじゃなくて、あゆみも待ってるわん。うふふ」
 ・・・・ベースの姉さんは舌足らずに話し、じゃあね、と言って演奏は終わった。
 その間、他の奴らは客の方を見向きもしないで、機材を撤去していた。
 俺を含めて、客の殆どは呆気にとられ、虚ろに拍手した。
 一方、少数の人間だけが、何時ものことさ、と言わんばかりに、皮肉に笑っていた。コアなファンなのだろう。その中でも、一際気持ちの悪い奴がいた。格好が気持ち悪いというのではないか、口元と、目元のだらしなさが、この男の本質を表している。まあ、どんなバンドにも、こういうファンはいる。バンドを甘やかすか、不当に批判して、結局はプラスにならない存在だ。心と肉が合わさった所で音を楽しむことが出来ない奴らだ。
 それにしても、さして耳が良いとは思えない、こんないい加減な客を前に、あれだけ集中した音を聴かせるのはもったいないと、俺は思った。
 ・・・・全てのプログラムが終わった後、やはり俺は打ち上げに付いて行った。飲みましょうと言われたら、俺は大抵、断ることが出来ない。
 その、四条河原町の阪急の裏の、安い居酒屋は、親切な事に朝まで営業していて、翌朝が休みの俺は意地汚く付いて行った。
 俺は目立たないように出口近くの端っこに座った。主催者と思われるヒョロッとした眼鏡の男が「じゃあ、乾杯」と言うまでは、誰にも声を掛けられず、「まあ、人の呼吸を感じながら、酒が飲めるのは楽しいし、後は適当にあしらって・・・・」と思っていたのだ。まあ、独り飲みばかりも飽きるからな。
 ・・・・あのメンバーと一緒にやる。それはとても刺激的なことだろう。ひょっとすると、今まで、俺がやってきたバンドの中で、最も面白いと思える音楽が「聴ける」かもしれない。
 だが、その話は上手く行くのだろうか。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-03-05 00:33 | 第一話 「黒猫は踊る」