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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 「“それがどんなイデオロギーであろうと、イデオロギーと結びついた音楽なんて信じられない。特に、黒人解放運動と結びついた、あの頃のジャズなんて、形式がワンパターンなのに何が解放なんですか”と言ったんですよ。六〇年代のジャズなんて、ソロ回しをしていただけじゃないですか。
 また、殴りますか?」
 ・・・・あゆみが、困った目をしてこっちを見ていた。
 不思議と怒る気はしなかった。冷静に聞いていれば、こいつの主張の拠って立つ場所は、分かる。
 「あんたの言うことは、ある意味分かるけど・・・・。
 でも、形式があるから不自由なんだという訳でもないし、自由な関係の中だって、約束事を探すことばかりにかまけている奴はいるし・・・・」と、そこまで言って、俺は黙った。
 この話は、あの夢の中で、ドルフィーとミンガスが、去り際に俺に話した内容と、リンクするんじゃないか・・・・。
 俺は、あの後、彼らに話す言葉を、探しただろうか・・・・。
 俺は、“自由”について、改めて考えただろうか・・・・。
 そう考える一方で、“俺はこの間の練習で、何か、違う場所に来たんじゃないか”という想いが滲み出してきた。
 “上手く言えないけど、あんた、こいつ等と一緒に演奏したことはなかったとしても、本当に、共に、演奏の中にいたことはあるかい?”
 俺がそれを訊こうとした瞬間に輝広が言った。
 「まあ、次のライブ見てもらえれば、その辺りの話の、俺らなりの考え方が、見てもらえると思うし、これ以上話していると、ネタバレしそうなんで、もうお開きにしませんか」と、輝広は俺の目を見ながら言った。
 「・・・・瀧上君がそういうなら、良いですけど。神ノ内さん、ライブでは、今のご意見の続きを音で聴かして下さいね」
 そう言って、宮坂は帰っていった。
 「・・・・良いのか、輝広。多分あいつ、イントロ聴いた瞬間に帰るぜ」
 「大丈夫さ、薫子のパートを最後に回しておけば、そこまではいるよ。多分、全体を観れば、今度の意図は分かるさ」
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by jazzamurai_sakyo | 2008-05-28 00:45 | 第一話 「黒猫は踊る」
 「ああ、あのプログラミングは俺も良いと思った。あれは、誰が入れたの?」俺は宮坂の嫌みを受け流した。
 「カオルン」
 「薫子ちゃんの造るグルーブは、何時も、トランスっぽい感じだったんですよ。それをあゆみチャンが横に揺らして、他のメンバーがインプロヴィゼーションを展開して、時々薫子ちゃんが歌を入れて・・・・。僕が現段階で最も理想とする音です。
 でも、この前のは装飾過多で少し下品だったな。それに黒人ジャズのアイデアの完コピなんて、なんかね」
 そう、薫子のことを話す宮坂の口元と目元が、少しだらしなく見えた。そう想った瞬間に思い出した。あの時、『North』のフロアーで見た、奴の皮肉な笑いを。
 「宮坂さんさあ、多分、次のライブ以降、『癩王』は全く違った感じになるから、今までの話は止そうや?」と輝広はゆっくり言った。
 「あれって、違う方向って、言うのかしら?」と、あゆみは軽く眉間に皺を寄せた・・・・。
 「あゆみさあ、ネタバレしたら薫子怒るぜ」
 「宮坂さんは、ああいう古典的なジャズが嫌いなのかい」
 俺は、宮坂の話し方に少し苛ついていた。
 「結局、ああいう古いハードパップのジャズって、どんなやり方やったって、定型的で、面白みがないでしょ」
 「そうかな?」
 「それと、ドラムが入って迫力が出ると、逆にアイデアが単純になって面白くなくなるバンドが多いんでね。
 神ノ内さんって、前は『南蛮』って、ファンキーな感じのバンドにいたんでしょ。『癩王のテラス』は、クールな狂気を感じるところが好きなんでね。神ノ内さんみたいに上手い人が入ることが、少し不安、なんですよね」
 「・・・・クールな狂気って言われても、あゆみは、困るんですうけど」
 「あゆみちゃんは、和み部門担当だもんね」宮坂はそういって皮肉に笑った。
 ・・・・そういえば、あのエレベータの中でジャズの話をした。
 「それで俺は、五〇年代、六〇年代のフリーじゃないジャズにも、時代に風化されない狂気があるぜ。それも、飛び切り凍り付くようなスリリングな奴が、って言ったんだっけな」
 「・・・・思い出しましたか。それで、僕が何を言って貴方が殴ったか、覚えています?」
 「それは、思い出せない」
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by jazzamurai_sakyo | 2008-05-21 22:33 | 第一話 「黒猫は踊る」
 「大体、誰なんだ、宮坂って」
 あゆみと輝広は顔を見合わせて、「誰って?」
 「必ずチケットを買ってくれて、何枚かは売ってくれる人」と、あゆみは言った。
 「勝手に、自分のホームページで『癩王』のライブレビューを書いている人」と輝広は言った。
 「どんな、ホームページなの?」
 「まあ、見たら分かるよ。多分、音楽の趣味は神ノ内さんに似てると思うんだけど。・・・・ちょっとね」
 「ふーん。そんな顔つきで趣味が似てると言われても困るんだけど」
 「俺はああいう奴は嫌なんだ」
 「私にナツイテるのよね、彼。元々は『The End of North』の常連なの。初物好きなのよ。人気が出そうなインディーズ・バンドを誰よりも早く評価するのが趣味なの」
 「・・・・それで、インディーズ・バンド、『癩王のテラス』に対する、そいつの評価はどうなの?」
 「その名の通り、“キング・クリムゾン”の精神を“正当に”受け継ぐバンドなんだって」
 「少々、顔が赤くなる評価だな」
 「それから、カオルンは彼にとって、まかり間違って地上に降り立った天使だそうよ」
 「天使って・・・・」悪魔の間違いだろ。
 「それで、その宮坂って奴がどうしたの?」
 「今から、この店にチケットを取りに来るんだけど」
 あっ、そう、と言った瞬間に入り口のカウベルが鳴った。
 「ああ、あゆみチャン、コンバンハー」と言った目が俺を見つけて曇っていた。
 思い出した。『North』で見た、口元と目元のだらしない男だ。
 「オハヨウっす」と俺は言い、目を背けた。奴は俺達の座るテーブルの残りの一角に座り、焼酎のお湯割りを頼んだ。
 「仕事のけりを付けるのに、踏ん切りが付かなくてさあ」と奴は言った。
 「お疲れサン」と、あゆみは言い、「それでね、これ、五枚。何時もアリガト」と、上手く笑いながら言った。
 宮坂は「ウン」とだけ言い、精算した。
 「薫子ちゃんは?」
 「色々あるんだって。高校生だしね」と言った、あゆみの目は俺を見ていた。んなもん、フォローできるわけないだろ?
 気まずく、黙って飲む時間が五分後、
 「神ノ内さん、でしたっけ。『癩王のテラス』に入ることは決まったんですか?」
 「五月三日の『North』には出るよ」
 「そうですか。楽しみにしています。・・・・僕は個人的には、シーケンサーのクールな感じも好きだったんですけどね」
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by jazzamurai_sakyo | 2008-05-14 00:57 | 第一話 「黒猫は踊る」
     八

 何度か、練習してみて分かったこと。
 みんなが持っている楽器は何故か全て古いこと(俺もそうだが)。ただし、楽器の手入れはこまめにされていること。
 あゆみはとても配慮のある、暖かいバッキングをする。ただし、しばしば破壊的な勘違いをする。彼女以外は、他人の裏をかく演奏の方が好きなこと。
 輝広のテナーは習得途上だが、奴のテナーさえ除けば、四人は、やたら上手いということ。ただし、技術は常には陳列されず、一瞬の爆発(時に暴発)の時に、瞬間、凄まじいレベルで表現されること。
 時間がないにもかかわらず、練習はあまりせっぱ詰まったものではなかった。過去の経験で、かっちりした練習しかしたことのない俺は、このまとまりのない練習に最初は戸惑った。
 だが俺は、『南蛮』の時のように、メンバーの音に細かく口出しして、音をまとめてしまうような、昔の自分流でやるのは止めることにした。何故なら、予測のつかない音の流れに付き合って、時には煽り、時には無視して突っ走ったり、暴走に付き合ってやったりするのが、楽しくて仕方なかったからだ。
 アンサンブルがマトモに機能することは本当に稀なのだけれど、上手く行く瞬間はとても美しかった。
 そして分かったのだが、高校生の薫子と冬美は、全く金に困ってなかったが、学生の輝広とアルバイトのあゆみは、何時もあまり持ち合わせがなかった。
 そして俺は、ライブ直前練習の後、スタジオ近くのロック・バーで、あゆみと輝広にタカられていた。あの、ガタイのデカイ、モヒカンの兄さんがやっている店で、やたら器がデカくてなみなみと注いでくれた。
 「ねえ、カミさん、宮坂さんのこと、覚えてる?」
 「誰、それ?」
 「あー、やっぱり、覚えてないよ、この人」
 「あんた、この前の打ち上げの帰り、エレベーターで一階に下りた所で、思いっきり殴ってたじゃないか」
 「それでお返しに、お腹蹴られてたじゃない?」
 「俺の腹を蹴った? 次の日になっても腹の痛みが消えなかったのは、そのせいか。俺は、あゆみが実はテコンドーでも習ってたんだと思ってた」
 「んな訳ないじゃん。筋肉ついちゃうじゃん?」
 「既に胸にいっぱい付いてるじゃん?」
 そう言った瞬間、輝広は鼻先に右手のグーを入れられた。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-05-07 18:42 | 第一話 「黒猫は踊る」