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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 次回予告

 彼等は、失われゆく「地下王国の園」において、聖なる暗闇と陽光の戦い、そして再生を祝う歌を奏でた。
 その歌は、偉大なる深紅の王が歌う「暗黒の世界」に匹敵する聖歌だった・・・・、なんて、冗談は置いといて。
 それは聖歌ではない。黒猫を探すための、アナウンスに他ならない。僕たちは船を出す、風を受けて。
 LP3,000枚とメルセデスベンツEクラスの、どちらが重いか。どちらにせよ燃えれば火勢は同じ位だろう。
 いや、火は点けられるべくして燃えたのだ。
 コレクションは必要ない、薫子の前では。

 次回 第二話 「青い光」!

 彗々たる星斗にも勝りて、夜が吾等の裡に開きたる永遠の眼こそ聖なれ。

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by jazzamurai_sakyo | 2008-08-20 01:30 | 次回予告
     十二

 片付けている時にふと気付くと、鍛冶舎タケシの姿はなかった。演奏が途切れる瞬間まで、奴はいたのだろうか。
 打ち上げで行った、前と同じ店の同じ部屋の片隅で、俺は冬美の隣に座った。乾杯が終わって冬美は、ミネを飲みながら囁くように言った。
 「凄く美味しかった。もう少しでイケそうだったのにね」
 睫毛バサバサの奥の瞳に、濃厚なエロスが満ちあふれていた。
 薫子が冬美と一緒に先に帰った後、俺と輝広とあゆみは、また勝手に盛り上がって酒を飲み明かした。
 その日のライブの内容については全く話さなかった。
 ただ、俺は「異世界って何だ」と、あゆみに訊いた。
 既に酔っぱらっていたあゆみは、「ん。勢いで言ったちゃった。だって、違う世界に行けそうに感じたんだもん」と言った。
 そうだな。俺もそう思うよ。・・・・色々、問題はありそうだがな。
 後は、宮坂の話を少しだけした。
 馬鹿話の最後に、輝広が、「長い付き合いになりそうだな」とだけ言った。

 俺は『癩王のテラス』の奴らのことを、まだ良く知らない。どんなオリジナルをやっているのか、奴らがどんな生活をしているのか、奴等がどんな音楽が好きなのか。
 ただ、どんな意志の有り様をしているのかだけは分かる。
 それは音を聴けば分かることだから。
 そして、つい最近まで現実感のない感覚に支配されていた俺が、奴等の音に対することで、実感を持ち始めている。
 音によって、場にあり得る、ということの、厳しい嬉しさを感じている。
 ・・・・宮坂は、奴等の音に対してどんな距離の取り方をしていたのだろう。どんな場所であろうと、人が奏でる以上、今、瞬間に向かって放たれている音は、煌めきながら、凄まじいスピードで死に向かっている。
 あゆみは「宮坂さんの気持ちは少し分かる」と言った。
 あゆみ、俺も分かるよ。でも、他人の生は所詮他人のものだから、コレクションしてもダメだ。聴くという行為が、自分の中の命題と照らして、その本質に向かって積極的にアプローチする行為でなければ、喰われてしまう。奴のスタンスでは。
 俺が喰われる人間なのか、否か、お前達も、冷たい目で俺を見ていただろう?
 だが、それで良い。お互いそうでなければ、一緒にやる意味はないし、異世界には行けないさ。
 次の練習はまだ決まっていない。きっと、あのモヒカンの兄さんがやっている店で、あゆみが伝えてくれるだろう。
 夢の中で良い。黒猫と、変態オヤジに、もう一度会いたい。
 今度は俺が、お前達を踊らせてやる。

     (第1話 終わり)
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by jazzamurai_sakyo | 2008-08-13 01:26 | 第一話 「黒猫は踊る」
 “彼はもう生きていないのよ”と儚い顎が動いた。
 消え逝く、パッセージ、美しすぎる、黒猫の背。
 ビロードの手触りの、漆黒の闇。
 俺は奴を抱いていた。
 / 死んでいた魂を抱いていることしかできなかった。
 少女は奴を川に流した。
 / 再生のために。
 アルトは、ただ単純に美しく鳴っている。
 アルトが、こんなに明るくて、悲しい音をした管だと、今まで、知らなかった。
 きらきらと輝く河面、流される桜の花弁。
 橋の下の暗闇。
 匂い立つ生と、暴力的な死。
 それら全てだ、お前は。薫子。
 俺とお前は、共に創造する解放と神秘を共有できるだろうか・・・・。

 そう思った瞬間だった。
 タムを叩くはずのスティックが空を切り、次いで右足が抵抗無く前につんのめった。
 目を開くと、宮坂がドラムセットを前に引き倒している。
 ステージのライトの影の中で、一瞬見えたその目は、真っ赤だった。
 すぐに元輝が、奴の腕を引き寄せる。宮坂はそれを振り解いて、クラッシュシンバルのスタンドも引き倒した。
 輝広がその左頬を殴り、奴は尻餅を付いた。
 主催者の眼鏡の男が飛んできて、宮坂の肩を抱き、奴に何か言ってる・・・・。あゆみも、その前に立って、宮坂を見ていた。
 薫子は・・・・、虚ろな目をして俺を見ていた。
 俺は、ドラム椅子に座ったまま、足を組み、壁に背を凭れた。そして、薫子の顔を見ていた。左目の下の小さなほくろを。
 言わなければならないことは、何もなかったけど、俺の唇は動いた。“タノシカッタナ”と。
 薫子の目は何時もの覚醒を取り戻し、紫煙の中で儚い顎がコクンと小さく頷いた。そして、あゆみに何か言った。
 あゆみはマイクに向かい、「ありがとう。これで終わります。『癩王のテラス』でした。
 これから、私たちは異世界に行きます」と言って、スタンドからマイクを外し、そのまま座り込んでいる宮坂の前にしゃがんで頭を撫でてやった。
 そして、「乗り遅れたからって駄々こねないでね」と、マイクに向かって冷たく言った。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-08-06 01:05 | 第一話 「黒猫は踊る」