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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 「それと、シンバルもちゃんとしたの用意して欲しい。
 ついでに言うと、瀧上さんのテナーサックスも、そろそろ虚仮威しのレベルから抜けて欲しい」と冬美は付け加えた。
 「ハイハイ」と輝広は生返事をした。何時も言われているのだろう。
 ・・・・俺は、素直すぎる様な薫子の独白も、冬美の指摘も、本当に嬉しかった。俺のことを踏まえて、バンドのコンセプトを白紙に戻してくれるなんて、とかく便利使いされやすいドラマーとしては、本当に嬉しいことだった。
 輝広とあゆみのCD録音の話も、俺の音を認めてくれるからこそ出たんだなと思った。
 でも、俺には、改めて確かめておきたいことがあった。
 「・・・・薫子、君に訊きたいことがある」
 「何でしょう」
 「君は俺のことを何処で知った」
 「何故、そんなことに興味があるの?」
 「いや、強い興味ではないんだ。ただ、俺が『南蛮』を演っていたのは二年も前だし、それに・・・・」
 言うなら、今しかない。
 「辞めたのは解雇されたからだと知っていて、俺を誘ったのか」
 薫子は、ホットプレートの向こう側から、初めてあった時のように、あの冷たい目で俺を注視した。
 だが、それは侮蔑的ではない。
 冬美は本当に興味の無さそうな白けた顔をした。
 「神ノ内さんを知っていたのは、たまたま、『南蛮』のライブを観たことがあっただけ。初期のね・・・・。それだけよ。それ以外のことは・・・・」
 「知ってたとしても意味がない」冬美と輝広は殆ど同時に言って、目を合わせてお互い苦々しい顔をした。
 「俺達は、この前のライブで、もう十分知り合った」と輝広は言い、「そうだね」と冬美は言った。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-11-26 22:59 | 第二話 「青い光」
 「・・・・お父さん、ああいうレコードは数える程しか持って無かったから、あんまり分からないんだけどね。あの、楽器の種類に関わらず対等な感じが良いかなって。
 今までは私がコンセプトを決めて、そこに参加してもらってる感じがした。制約もあったと思う。私も、何処かまとめようとしていた気がする。そのことに限界を感じてたし、正直言うと、バンドになって無かった。
 神ノ内さんが入って、音の幹が出来たと思う。コンセプトを固めなくても、みんな我が儘に演っても、良い演奏は出来ると思う。形にならなくても、ライブ一時間のうちの十秒足らずでも良いから、今までに聴いたことの無いような音になれば良いと思うし、そういう音が自然に出てくる気がする。私は今、そういうのが聴きたいし、演りたい。だから、みんな自由に演って、その中からカテゴライズできない音楽が生まれてくるのを待ちたい。
 それと、みんなが自由に演ってくれた方が、私も我が儘になれる気もするし・・・・」
 「え、今までも十分我が儘だったぜ」と言った瞬間、輝広の鼻先に、あゆみの右手のグーが入れられた。
 「茶々入れないの」
 「一言、言わせてもらうけど」と冬美が言った。「今の薫子のコンセプトは、神ノ内のオッサンをこれからも音の幹に据えることを前提にしてるんだよね?
 それで良いとは思うけれど、でも、このオッサンには、もっとレッスンしてもらわないと、このコンセプトは巧く機能しないからね」
 「冬美ちゃん、他に上手な言い方ないの?」あゆみは少し窘めるように言った。
 「バスドラムのリズムと音量がバラツく時があるし、それと、フィルインする時、躊躇する一瞬がある。これは許せない。その他にも、色々あるけど・・・・」
 「俺には、分からなかったけどなあ」輝広が暢気に言った。「相変わらず耳良いな、お前。でも、もうちょっと言い方直せよ」
 「いや。冬美の言うことは当たっている。直しとくよ」と俺は言った。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-11-19 23:40 | 第二話 「青い光」
 「ねえ、あゆみちゃん、ほっぺたにマヨネーズ付いてるよ」
 「・・・・カオルンこそ、顎にもほくろ、あったかしら」
 「ほくろ?」と薫子が言うが早いか、冬美が薫子の顎の青のりを右手の親指で拭い、その指を舐る。
 「ありがと」と薫子が言った。輝広とあゆみは黙っている。
 ・・・・食べている途中から、薫子はミーティングの中身を喋り出した。とは言っても、自分がこれからバンドでどうしたいか、という意思表示だった。
 その具体的な内容は、俺が入る前の曲はもう演りたくないということ、曲作りは全員の持ち寄りとしたいということ、ある程度、形が見えてきたら、固めることに拘らず、ライブを組んで行きたいということ。
 「それと・・・・、あまり、同じ曲を繰り返し演りたくない」
 「それには賛成だが、俺はCDを作りたい。曲に飽きる前に」と輝広は言った。
 「・・・・はっきりしたコンセプトがある訳じゃないけれど、私もCD作りたい。このメンバーで」と、あゆみが言った。
 「CDは出来るだけ早く作りたい。私も」
 薫子は躊躇無く言った。
 「でも、そのための曲を用意する様なことは考えていない。コンセプトを固めることも。今から演っていく音が、残すべき音だとみんなが思えた時に、作りたい」
 「まあ、前の音はおとなしすぎたしね。それに薫子の作るシーケンサーのフレーズも、段々作り込まれてきて、少し窮屈だったんだ。
 この前のライブの、あの混沌は結構気に入った。薫子は、あの混沌の美のまま、最初からスタートしたいんだろ」と、冬美は皮肉っぽく言った。
 「薫子は今、フリージャズっぽいのばっかり聴いてるしね」と輝広が言った。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-11-12 07:17 | 第二話 「青い光」
     四

 「・・・・それで、何を食べるって言うの」冬美が嫌気に訊いた。
 「お好み焼き」と、嬉しそうにあゆみが箸を割った。
 「このホットプレートじゃ、五枚一緒には焼けないぜ」と、輝広が肉を広げながら言う。
 「・・・・小麦粉と、キャベツの焼き物だろ?」冬美が毒づく。
 「広島のお好み焼きは、小麦粉の固まりといえる大阪焼きと全く異なる。そのかわり、キャベツの役割は大きい」と輝広は言った。
 「・・・・冬美ちゃんは、こういう、お好み焼きとか、食べたこと無いの?」あゆみが、ドボドボと赤ワインを自分のグラスに注ぎながら言う。
 「あゆみちゃん。ミーティングするんだから、配分考えてね」
 薫子が、この部屋に来て、初めて口を開いた。薫子は、さっき、あゆみがへたり込んでいた場所にあぐらをかいて座り、レコード棚とCD棚を見ていた。
 「想像してた通り、・・・・マニアね」と薫子は低く言った。
 あゆみがケラケラ笑った。「やっぱり。マニアじゃん」
 「・・・・何か、聴きたいのあるか?」
 「そうね、あり過ぎるから、神ノ内さん、何か選んで下さい」
 「じゃあ、最近好きになってきたドラマーを・・・・」俺は、Miles Davisの『Live in Tokyo』を棚から引き抜いたが、即座に薫子は、「マイルスはファシストよ。私は嫌い」と言った。
 あゆみと、今度は輝広までもが、冷笑した。
 「マイルスは聴かなくて良いから、ドラムのアンソニー・ウイリアムスを聴いてくれよ。多分、この録音の時は、薫子と同じ年齢だけど、飛び切り破天荒な演奏が・・・・」
 「多分、トニーの方が一つ下。とにかく、他のにして」
 「じゃあ、ZEPPの『PRESENCE』を」
 「カミさんもドラム馬鹿だな」と輝広が言った。
 ・・・・それから俺達は、輝広が焼いたお好み焼きを食べた。
 なかなか美味しかった。俺があまりに褒めるから、輝広は自慢げだった。「こんな下品なもの食べたこと無い」と言っていた冬美も、二枚食べた。さすがにマヨネーズは付けなかったが。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-11-05 23:18 | 第二話 「青い光」