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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 「神ノ内くんも、結構、芸歴長いんやなあ」紫野山さんは、意外そうな顔をしてそう言った。
 「・・・・この前、あゆみと話していて、思い出したんですけど、俺、紫野山さんのバンド、京大西部講堂の年越しオールナイトで見たことありますよ。八〇年代半ばから、毎年、あのイベント、やってはりましたよね」
 「へえ、パンクも聴くの?」
 「俺は、雑食ですから。それで、“アングラ”は何時、閉まるんですか。
 俺も全然、顔出してませんから、責任、ありますね・・・・」
 「そんな責任は感じんでも、イイんとちゃうかなあ。最近は、そんなに観に行く価値のあるバンドも出てなかったと思うし」
 紫野山さんは、口調は柔らかいが、結構、キツイことを言う。
 「ただ、閉店のイベントを、六月一日、二日とやるみたいで、昔、店に出ていた奴等で、イベントに出てくれそうな奴がいたら、声かけてくれって言われてなあ。
 あゆみちゃんだけじゃなくて、神ノ内君も出たことあるなら、今のバンドで出たらイイんとちゃうかなあ」
 「あゆみ、どうしたい?」
 「 “underground garden”は、前のバンドの時、よく出してもらったし・・・・」
 「坂本君は、あゆみちゃんのファンやしな」
 「でも、うち、今まだ、持ち歌は一曲しかなくて」
 「多分、一バンドの持ち時間って、セッティング込みで二〇分位しか、無いと思うよ。五分の曲で三曲までしか、無理やと思うし、短いのは問題ないのとちゃうかなあ」
 「私、どうしても出たい。・・・・カオルンに聞いてみる」あゆみは携帯電話を持って店を出ていった。
 「神ノ内君は、今のバンドは、居心地良いの?」紫野山さんは、俺のラム・ソーダのお代わりを入れる間に、突然、言った。
 「居心地は、・・・・あまり良くないですね。高校生二人に仕切られてる訳ですから。あいつ等二人は、あゆみも、輝広も、俺のことさえ、年上とは思っていないみたいだ。
 ただ、こっちが言いたいこと言ってもキレる様なガキじゃないし、とりあえず話はできますから。今まで演ってきたバンドの中では、一番刺激的で、破壊的で、創造的で・・・・、まあ、面白いです」
 「ふうん。まあ、イイ感じで演れてるんだ」紫野山さんは、コトンと、俺の前にグラスを置きながら言った。
 「でも、僕も薫子ちゃんとか、冬美ちゃんとは話したことあるけど、やっぱり、まだある意味、ガキやと思うけどなあ・・・・」
 “どんな意味でしょう?”と口にしかけた瞬間、あゆみが店のドアを開け、「カオルン、出る方向で練習しようって」
 「そうか。そしたら、坂本君に連絡しといて」と紫野山さんは言い、俺達はその後、薫子と冬美の話はしなかった。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-12-31 01:50 | 第二話 「青い光」
     六

 再開後、最初の練習の後、スタジオ近くのロック・バーで、俺は、また、あゆみにタカられていた。
 今日の練習は面白かった。
 スタジオに入った順番から音出しをして、曲を素材に延々とセッションした。だが、誰一人、薫子が録ってきた雰囲気のままに演奏しない。輝広がサビをテーマにやけに粘っこい泣きのギターソロを聴かせるかと思えば、薫子が鳴らした仰々しいオルガンに乗せて、冬美が清々しいファルセットボイスで聖歌隊のリード宜しくAメロを歌い上げたりして・・・・、全く収集が着かなかった。
 誰かが提示する雰囲気を楽しむために乗っかることはあっても、合わせて盛り上げてまとめていこう、などという考えは全く見あたらなかった。
 着いていくのが精一杯、という感じのあゆみは、後半キレた様で、サイケデリックなベースラインを連発し、俺は調子に乗ってハードに着いていったり、全く合わない変拍子を入れ込んでビートを逆にして、また戻ったりと、滅茶苦茶にしていた。
 薫子は笑いが絶えなかった。こんなに笑う女だとは思っていなかった。けして、大声で笑うわけではないが。
 自分の曲をあんな風に弄られて、喜ぶ奴を見たことがない。
 あいつはこういう練習がしたかったんだろうか。
 俺は、一応、最初から最後までカセットを回した・・・・。
 「『癩王のテラス』の練習は、何時もあんな感じだったのか」
 「ううん。前はもっと硬かったな。リズムパターンを決めるのに時間を盗られてね。
 カオルンはパターンに対する執着が結構シビアっていうか。在り来たりなパターンを避けようとするし、同時に、みんなが良い感じになるグルーブを探している気遣いが強くって。
 まあ、気に入らないグルーブだと、冬美ちゃん本当に手を抜いた演奏するからね」
 「今日の練習と一八〇度逆じゃないのか」
 「そうね。今日、カオルン、楽しそうだったな」
 あゆみもそう感じていたことに、俺は驚いた。
 薫子は、責任感が強すぎるのだろうか・・・・。
 「あゆみちゃん、“underground garden”、店閉めるの、聞いてる?」
 ちょっとした会話の間に、あの、ガタイのデカイ、モヒカンの兄さん(名前は紫野山さんという)が、カウンター越しに俺達に声をかけた。
 「え、聞いてない。何で?」
 「何でって、まあ、客が入らんかったからやろ」
 「・・・・坂本さん、店閉めるのか」
 「カミさん、坂本さんのこと、知ってるの?」
 「俺、最初にライブに出たのは、移転する前の、“underground garden”なんだ」
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by jazzamurai_sakyo | 2008-12-24 00:03 | 第二話 「青い光」
 俺の混乱を斟酌したかのように、歌はサビに入る前にブレイクして、ピアノとフルートがユニゾンしてメロディーを挿入する。そして、何か吹っ切れた様に、薫子はサビを歌う。
 その繰り返しが終わる瞬間の「間」、右のヘッドフォンの奥の遠くの場所で、「キーッ」と、車の急ブレーキの音が聞こえた。
 その瞬間、場面は鮮やかに転換され、、薫子が息を吸い込むために、唇を開く音が聞こえた。 その瞬間のテンションの高さに、俺は打ちのめされた。
 そして、フルートのソロが、流れ出した。イコライザーで高音を切っているからなのか、エコーのかかり具合が幻想的だ。音数を少なくして、叙情性の排除された冷たいメロディが、正確にコントロールされる。タンポが開く音まで計算しているとしか思えない。
 フルートは、ピアノが演奏を止めた後も、少しだけ続いた。
 ・・・・薫子から渡されたテープを最初に聴いた時のトリップは、そんな感じだった。
 あのミーティングの夜、薫子と冬美が帰ってから、残された三人は、少しだけハッパをやった。
 楽しいパーティーだった。数本のロウソクを灯して、美味いチョコレートを食べ、静かに音楽を聴き、のんびりと春の空気の中に澱んだ。
 余程居心地が良かったのか、あゆみが三時頃にウトウトとしたから、俺は輝広とあゆみに「泊まっていくか。キメている時に外を歩くのは、危ないぞ」と声を掛けた。
 そして、寝間着を出してやり、歯を磨かせて、二階の部屋に寝かせた。
 「この寝間着、オンナモノだけど、私、着て良いの?」
 「ああ、・・・・いいよ」
 「気にしないで、借りといたら?」
 輝広は軽く流して、歯磨き粉をあゆみに渡した。
 「これ小さいから、なんか違うの貸して。
 ・・・・何時も思うんだけど、ホント、歯磨き粉はハッパとは合わないわ」
 それから俺は独り、ミルクたっぷりのコーヒーを入れ、軽い醒めかけの頭にヘッドフォンをして、テープを聴いた。
 続けて、五回聴いた。それ以来、一体何回、俺はこの曲を聴いただろうか。キメて聴いたのは、最初の夜だけだったが。
 「青い光」という言葉が意味する薫子のビジョンは何なのだろうか。テープを聴きながら、何時もそう考えていた。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-12-17 23:00 | 第二話 「青い光」
     五

 幽かなノイズが、渦を巻いている。
 ペダルから、足が離されて、キュッと鳴き声をあげ・・・・、ピアノがコードを押さえる。
 生すぎて、ガンガンする。ちょっとボリュームを下げよう。
 複雑ではない。だが、儚げなコード進行だ。
 ステレオで録ってるのか・・・・。リバーブやディレイでは絶対に表現できないであろう、箱が鳴らせている左右からの反響音がゆらゆらとして・・・・、その周りにナチュラルなノイズが絡みついて、メチャメチャに気持ちいい。
 そして、一瞬、唇が開かれる音。空気が薫子の鼻腔の中を豊かに吸い込まれ、声が発せられる。
 透明感のある、澄んだ、良い声だ。彼女がアルトを鳴らす時と、鳴り方が一緒だ。彼女の声帯が最も開放的に鳴る鳴り方で、それは鳴っている。
 その声が、素朴だが、キレイなメロディを歌う。
 歌詞は無い。“ラ、ラ、ラ”と、薫子は歌う。おそらく、歌は別録りだな。何処で録っているのか、割と狭くてクローズドな場所で録った時特有のリアルさと、浅いエコーがかかっている。
 トイレ、かな。
 などと考えていると、薫子はサビに入る直前のフレーズで、少し、歌うのを躊躇した。メロディが不明瞭になる。
 だが、サビは、印象的なコードの大きな繰り返しに乗せて、キャッチーなメロディーを歌った。・・・・こんなメロディーを書くとは、想像してなかったな。
 さり気なくフルートのソロが挟まれた。これも、別録りか。録った場所は絶対に風呂だな。ディープなエコーだ。
 二コーラス目、薫子はAメロを少しだけ崩して歌った。この辺は薫子らしい。崩し方が、全然黒っぽくない・・・・。
 などと考えていると、一コーラス目で躊躇したサビ前で、薫子は意を決したように「・・・・アオイ、ヒカリ」と歌った。
 突然発せられた、その言葉が喚起するビジョン、中空を貫く「青い光」が、左右の耳から差し込み、俺の脳室の中心で交差して・・・・、冷たい水滴を落とした。
 何だ、「これ」は?
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by jazzamurai_sakyo | 2008-12-10 23:55 | 第二話 「青い光」
 「私が知っていることは、私が聴いた『南蛮』のCDは、ショボかったってことだな。
 まあ、芸歴も長いと色々あるよ。それより・・・・、ああ怖。私、覚えるのって苦手なのよね。これから、全部、やり直しなんて・・・・。大体、スタジオで考えるのも苦手だし」
 あゆみはゴクゴクと赤ワインを飲み干した。
 「でもまあ、何とかなるでしょ。とりあえず、から始めたら?」
 「そうね。それでいい」薫子は俺を見ながら言った。
 その目は、少し嬉しそうだった。
 「じゃあ、とりあえず、私、曲作ってきたから、みんなに渡しておくね」
 ご愛用と思えるブルーの、ボロボロの鞄から、薫子はカセットテープを四本取り出して、みんなに渡した。
 「今、聴くか?」と俺は言った。
 「今は、いい。・・・・恥ずかしい訳じゃないけど、今、この曲についてミーティングしたい訳じゃないから、アプローチは、みんな独りになった時に考えて」と薫子は言った。
 それから俺達は、食べることに専念し・・・・、最後はあゆみが焼きそばを焼いた。キャベツを蒸すのに赤ワインをかけた時にはみんなが叫んだが、・・・・美味かった。小食と思える薫子と冬美も「意外に美味しい」と褒め、俺と輝広は結構食った。
 それから、あゆみは、定期的なミーティングの必要性について言及したが・・・・、惰性になると嫌だから決めるのは止めようと輝広が言い、スタジオで解決できない問題が生じたら、ココに集まって話せば良いと冬美が言った。
 「え? おぼっちゃま、この部屋で宜しいのですか?」と、あゆみが言った。
 「オッサン、タバコ吸わないんでしょ。それに、意外と整頓されてるし、まあ、ココで良いよ」
 “まあ”ですか。“まあ”ね。どうやら、冬美の中で俺の呼称は“オッサン”に落ち着いたらしいな・・・・。
 薫子と冬美は十一時位に、例の如く先に帰った。「もう眠い」と冬美が言い、タクシーを呼んだ。
 タクシーを見送りながら、あゆみは「ねえ、カオルンから聴いたんだけど、良いモノ持ってるんだって?」と言った。
 「良いモノ、とは?」あいつ、やっぱり気付いてたか。
 「・・・・シラ切らないで、ハッパ、あるんなら、ヤラセテよ。きっとあると思って、私、北山通りのゴディバ寄って、チョコレート買ってきたんだから」
 「そうなの。何だ、早く言ってよ」輝広の目も輝いている。
 「・・・・良いよ。じゃあ、今日は最後のパーティだな」
 「なんで」と、あゆみは意外そうな顔をして言った。
 「もう、ハッパは止めることにしたからさ。それが無くても、俺は異世界に行ける・・・・。おまえらと演奏するなら」
 輝広はふふん、という顔をし、あゆみはワイングラスを回しながら言った。「それ、何時か、カオルンと冬美ちゃんにも言った方が良いよ・・・・」と。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-12-03 00:48 | 第二話 「青い光」