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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 「学校って、同じ高校なのか」俺は訊いた。
 「同級生で、同じクラスなんです」薫子はしれっと言った。
 「なんなんだよ、オマエは。大体、おかしいと思ったんだ。何で聞いたことも無い名前のバンドが私らの前なのかって。何で此処に入り込んだ?」
 「リズム隊が、少し前の馴染みでね。僕が頼んだの」と坂本さんがフォローする。
 「最近までドラムがいなかったから、この箱には合わないと思って、控えていたのよ。本当は前から出たかった」
 「『シャク王のテラス』なんて、変な名前付けやがって」
 「・・・・YAE、違う違う、あれは“ライ”って読むんだよ」
 男の子三人の内の、メガネをかけた奴がフォローする。
 「え、癇癪のシャクだろ。私は漢字、得意だぞ」
 「違う違う、“ライ”だよ」
 「・・・・何だよ“ライ”って」
 「病気の名前だよ。ハンセン氏病の別名で、・・・・古い、差別的言い方で、あまり良い言葉じゃないよ」
 「そのハリセンってなんなんだよ。知らないぞ」
 俺は笑った。「薫子、君、学校が楽しそうで、良かったな」
 「・・・・誰だ、この性格の悪ソーなオッサンは?」
 「うちのバンドのドラマーで、神ノ内さん」
 「こんにちは。薫子が何時もお世話になってます」
 俺は深々と頭を下げた。
 「・・・・こんなオッサンと何演るのか知らないけど、しょうもない演奏しやがったら、乗っ取るからな。私らにとって、ココで最後のライブ演るには、時間が足りないんだよ」
 うーん、いい目だ。ぎらぎらした初期衝動が押さえられないのだろう。パンクを演る奴は、こういう目をしていないと。
 それに、ちょっと丸めだが、可愛い子じゃないか。
 「どうぞ。でも、良い感じ演奏の時は邪魔しないでね。前のライブで、良い感じの所を何故か邪魔されてね。二度は嫌なの。次、そんなことされたら、私何するか分からないから」
 「・・・・“underground garden”のラストだぜ。坂本さんの顔つぶすようなショボイ演奏したら、殺すからな」
 「私も、曾根崎さんのバンドの演奏が下らなかったら、ミキサーの電源を落としますから。
 ところで、坂本さんと神ノ内さん、何をニヤニヤしてるのでしょうか」
 あ・・・・、ばれた?
 「え、君達があんまり可愛いもんだから」と俺は言った。
 「いやー、良いなあ。女子高生バンド対決か。楽しみだなあ」と言った坂本さんの口元も、激しく緩んでいた。
 「・・・・このエロオヤジどもがっ」YAEは吐き捨てた。
 薫子の、オヤジ達を見る目は、冷酷で凍て付いていた。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-02-25 00:32 | 第二話 「青い光」
 「良いんですか? こんな良い順番をもらっても?」
 「うーん。ゴメン、そこしか入れられなかったんだ。
 あゆみちゃんから電話もらって、どんなバンドなのか教えてもらったんだけど、イメージが湧かなくって。どの場所にはめても、しっくりは来ないのかな、と思って。
 後の二つは、まあ、最近で一番元気いいのと、最後は大御所だから。どうなっても、まとまってくれるのかなって」
 「最後は、紫野山さんの所ですね」と薫子は言った。
 「あ、本当だ」俺は驚いた。こいつ、よく知ってるな。
 「そして私達の後が、YAEの所、前が、ボイドさんですね」
 「薫子ちゃんて、ウチに顔出してくれてたん?よく知ってるねえ」坂本さんが、びっくりしたように言った。
 「いえ、たまたま知っている方ばかりです」
 「こっちは知らないな。で、その前は・・・・」
 「鍛冶舎タケシさんですね」と薫子は素っ気なく言った。
 予想はしていた。あいつも昔から色々なバンドで此処に出ていたから。だが、また顔を合わすのか・・・・。
 「YAEちゃん、今日も出るんだけどね」
 「・・・・そうみたいですね」
 と、薫子が答えた時だった。店の入り口のドアが開けられ、ダボダボのズボンにTシャツ、ボタンダウンの半袖を着た、最近の若い子然とした男の子三人と、女の子一人が、各々コンビニの袋をぶらさげて大声で何か言いながら入ってきた。
 そして、その髪先を赤く染め、左手首に錨打ちのリストバンドをはめた女の子は、こっちを見ると、何か信じられないものを見たような顔をして、言った。
 「ゲ、藍王!」
 「こんにちは、曾根崎さん」薫子は馬鹿丁寧に挨拶した。
 「あれー、YAEちゃん、薫子ちゃんと知り合い?」
 坂本さんが暢気に声をかける。
 「・・・・藍王、なんでココにいる?」
 「私のバンド、最終日に、曾根崎さんのバンドの前に、出演させてもらいますので、宜しくお願いします。
 “Bloody Feather”は、今日のリハ、終わったの?」
 「・・・・お前がバンドやってるなんて、知らなかった」
 「学校では、誰にも言ってませんから・・・・」
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by jazzamurai_sakyo | 2009-02-18 21:11 | 第二話 「青い光」
 ビルの階段を下りて、店の前に着いた時、薫子は今日の出演予定表を注視して、・・・・くすっと、笑ったように見えた。
 店はリハーサル中で、坂本さんはジーンズに木綿シャツ、サングラスと、全く変わっていない。
 「あれ、確か『南蛮』のドラムのカミ・・・・えーと」
 「坂本さん、お久しぶりです。神ノ内です」
 「ああそうそう、久し振り。変わらないねえ」
 「ご無沙汰して、本当にすみません。・・・・寂しくなりますね」
 「いやー、親父からもらった山一つ、注ぎ込んだんだけど、経営努力が足りなくてねえ。神ノ内くんは、今、何してんの?」
 「橘あゆみから、連絡が来てませんか?」
 「ああ! あゆみちゃんと一緒に演ってるの?」
 「それで打ち合わせに来ました。今日、あゆみは来ませんが」
 「へえー、パンクのベースと、ジャズのドラムの組み合わせか。面白い出会いだねえ。・・・・それで、彼女は?」
 「うちの、ええと・・・・、ボーカルの薫子です」
 「初めまして、藍王薫子です。今回は、参加させて頂いて、ありがとうございます」薫子は歯切れ良く話し、ぺこりとお辞儀した。完璧な、優等生だ。
 「いやー、高校生にそんなに丁寧に挨拶されると、困っちゃうなあ」坂本さんの喜悦が、サングラスの奥に見て取れた。
 ・・・・すみません、こいつは本当は猫の死体を鴨川に投げ入れるようなエグイ女です、と教えてあげたかった。
 そして、坂本さんと俺は少しだけ昔話をしてから、薫子が書いたセッティングリストを渡した。
 「一曲なの。まあ、別に良いんだけど」
 「リニューアル中で、曲が無いんです。それで、当日の時間割なんですが」薫子は悪びれる風も無く言った。
 「進行表を渡すから見て」
 「癩王のテラス」の出演予定は、六月二日、日曜日、午後八時。最終日。・・・・トリの二つ前だ。
 “underground garden”は、移転してから、周囲の店の苦情により、演奏を夜九時までに終了しなければならなかった。そのことも、客を集められない理由だった。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-02-11 00:05 | 第二話 「青い光」
 「・・・・そのカバンって、ボロボロだけれど、ひょっとするとエルメスのバーキンじゃないのか?」
 「そうです」
 「そんなに使い込んだバーキン、今まで見たこと無いな」
 「使われない道具に価値は無いわ。良いでしょう。・・・・お母さんのなんです」
 「・・・・亡くなった?」
 「そう。あゆみちゃんから聞いたの?」
 「ああ。・・・・ごめんな」
 「何が?」薫子はまた少し笑う。
 「いや。何でもない」俺は、気遣いが苦手だ。
 「・・・・ところで。
 輪廻転生を信じるのか。輪廻転生の話だろ。三島の『豊饒の海』シリーズは?」
 「いいえ。大人のためのおとぎ話でしょう、これは。『美しい星』と同じ。生物は、死んだら終わりだと思いますし。
 “魂”がどの様に存在し、死者の肉体を離れて時間と空間を行き来するかどうか、なんて、おとぎ話は・・・・」
 薫子は、そう言ったが、次の瞬間、
 「でも、“意思”というか、“思い”は残ると信じている」と言った。
 ・・・・なんだ、その“思い”というのは?
 「神ノ内さんは、輪廻転生を信じますか?」
 「俺は、漠然と信じてるんだ」
 「そうですか・・・・。でも私は、前世で金魚だった記憶なんてない」薫子はまた、それを見る。
 エアーポンプの音だけしか聞こえないほど、店内は静かだった。
 「でも、輪廻転生するとしても、人は人にしか生まれ変わらないと思う」と俺は言った。「“魂”が存在し、“業”が、その“魂”にとって解決すべき問題を意味するとするならば、来世も人間でないと、その解決には近づけないだろうし・・・・」
 ふと、前を見ると、薫子が俺の目を覗き込んでいた。
 俺は、その瞳の冷たい美しさを直視できなかった。
 「聞き流してくれて良いんだけど、あのアレンジと構成、少しそういう雰囲気が出れば良いなと思って、作ったんだ」
 「そう」薫子は、椅子の背にもたれ、顎に右手の人差し指を当てた。
 「でも、その雰囲気に合う様な歌詞になるとは限りませんよ」
 「それは、構わないけど・・・・」
 俺は何故、こんな要らない話をしてしまったのだろう。
 「・・・・そろそろ、行こうか」俺は気まずくなり、そう言った。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-02-04 00:22 | 第二話 「青い光」