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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 だが、俺は「でも、恐らくあいつは『癩王のテラス』を嫌いにはならないと思うぜ」と言った。
 「何故?」興味無さそうに聴いていた薫子が、突然訊いた。
 「今日、あいつは必ず“underground garden”に来る。そして、新曲を聴いて、メロメロになるからさ」
 「メロメロって・・・・」あゆみは、困った顔をして薫子を見た。
 薫子はクスリと笑った。「自信がありそうね」
 「あいつは薫子にただ喰われていたに過ぎないが、前のライヴで初めてそれを知ったんだ。だが、あのひねくれ者の音楽好きは只の酔狂じゃない。必ず、確認にやってくる。それに自分が喰われるだけなのか、対峙すべきなのかを」
 薫子は、真っ直ぐに俺を見た。
 その時、突然あゆみの携帯が鳴った。
 「ねえ、時間が変に空いてるから、今リハーサルどうかって、坂本さんが言ってるんだけど。冬美ちゃんいないから、断る?」
 「冬美はどうした?」俺は眼を離さずに、薫子に訊いた。
 「お墓参り」薫子は、すっと、そう言った。
 俺は理解できなかった。黒猫の死体を鴨川に投げ入れたお前が、何故、墓参りを受け入れられるのか?
 死体は蛋白質、脂肪、カルシウムの固まりであって、それ以外のものではない。その感覚が、お前だろう?
 「私に訊かないで」と、薫子は無感情に言った。
 そして、少し間を置いてから、あゆみが「仕方ないじゃない。冬美ちゃんの家は、ああいう家だし、家に左右されることはあるよ」と言った。
 「家の儀式なのか」なら仕方ないが・・・・。
 「行こう」と薫子は言った。「これからはライブも増えるから、ぶっつけ本番みたいな場合もあるかもしれない」
 「五人もいれば、今日みたいに、誰かがいない状態でのリハは増える。これも練習のウチだな」と輝広は言った。
 あゆみは「うん」と言って、ベースを握った。
 俺はそれ以上は何も言わなかった。手筈は全て決めてあった。リハで冬美がいなくても、ミキサーに注文することは決まっていたし、慌てる必要は何も無かったから。
 リハは、思ったより時間が取れて良かった、俺に関しては。ただ、「新曲」全体を通しては演奏できなかったし、何より、薫子は歌詞を歌わなかった。
 俺は薫子の言動が何か腑に落ちなかった。
 「歌詞は出来ているのか?」と、俺は片付けながら訊いた。
 「答えなきゃいけない?」薫子は、きつい目をして言った。
 少しカチンと来た。「良いよ。演れば分かることだ」
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by jazzamurai_sakyo | 2009-03-25 02:13 | 第二話 「青い光」
     十

 六月二日、日曜日は朝から雨だった。
 俺は今回、客を呼んだ。といっても、昔、「南蛮」の対バンで知り合った奴等や、サポートをしてくれた人達の中で俺には好意的に思えた数人に、簡単な案内ハガキを送っただけだが。
 その内の二、三人は電話を寄こしてきた。だが、その内容は一様に、ため息混じりの「懐かしい」から始まり、「高校生と一緒なんて」の驚きの声で盛り上がり、「その日は都合が悪い」で終わった。
 午後四時、例によって冬美が予約した、“underground garden”近くのビジネスホテルの一室で、俺がそのことを何気なく話した時、あゆみは大きく「はあー」とため息をつき、輝広と薫子は苦笑した。冬美はまだ来ていない。
 「カミさんも、お客を呼べない人かあ」あゆみは顔を両手で覆った。
 「『も』って何だ?」
 「この二人とか、冬美ちゃんとか、集客のために努力するタイプに見える?」
 「・・・・そんなこと考えてもみなかったが、確かに見えないな」
 「私は、頑張ってるよ」薫子がフルートを拭きながら言った。
 「カオルンがやってることは、昔の油絵教室の知り合いにワープロ書きのダイレクトメールを出すこと位でしょ」
 「そう言えば、学校では誰にも話したこと無い、って言ってたな。何故なんだ。友達とか、呼べば良いじゃないか」
 「薫子に、高校生の友達がいるように見えるか?」
 輝広は、突き放したようにそう言った。
 そうか・・・・。俺は何と言えば良いのか分からず黙っていた。
 薫子も、黙ってフルートを拭き続けている。
 「今日は別に頑張らなくても客は入ると思うけど、これからは、みんな、もっとお客さん呼んでくれないと、困ると思うのよね。宮坂さんにも、もう頼めないと思うし」
 「あれ、やっぱりダメか」輝広は無責任な口調で言った。
 「ホームページ、あの日以来、全然更新されてないし、あのしつこかった電話も、全然無いわ」
 「まあ、前から期待してなかったけどね」と輝広は言った。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-03-18 00:42 | 第二話 「青い光」
 「この箱に顔出すの、久し振りとちゃうの」
 合間に、缶ビールを買いに入口に出た俺は、鍛冶舎タケシに発見されてしまった。レジは少し混んでいる。
 「・・・・此処でライブを観るのは、四年ぶりくらいかな」
 「神ノ内君のバンド、最初の頃だけやもんな、此処に出てたの。後は、街中のキレイな箱ばっかりやったんちゃう?」
 よく憶えてるな。お前は、俺には興味なかったくせに。
 「・・・・そう。僕は好きだったんだけどね。他のメンバーが演りたがらなくて」
 「僕も、最近は出てへんわ。・・・・今日のバンド観たら、分かるやろ」
 こんなバンドと対バン組まされても、削がれるばっかりで、無駄や、という声が聞こえて来そうだった。
 そうだろうな。鍛冶舎には、合わないだろうな。
 「・・・・この前の、『癩王のテラス』は、酷かったな」
 鍛冶舎は、ハイ・ライトに火を点けながら言った。
 「なんぼ上手でも、練ったもん見せられへんかったら、あれでは、客から金もらえへんで」
 ・・・・俺は、黙っていた。言っていることが正しいからだ。
 「まあ、最後のサックスとドラムのデュオは面白かったけどなあ。・・・・それにしても、相変わらずカッチカチのリズムやね。神ノ内君は」
 「・・・・そうか。大分、ダレてきたと思うけど」
 「全然変わってへんわ。正確で、冷たい鉄筋みたいな音や」
 そう、お前の大嫌いな、な。
 「明日は、ちゃんと練ったものを聴かせるよ。じゃあ」
 俺はそれだけ言って、暗い客席に紛れた。
 ふと見ると、ステージから一番奥のミキサーの前に、腕組みをして立っているYAEを見つけた。ミキサーを照らす暗いスタンドの明かりが、彼女の少し丸い頬を照らしていた。
 意思の強さが、眉間に現れていた。自ずと周囲から浮いて、目に付いた。この前は、観ずに帰ったから、明日が楽しみだ。
 相変わらず平板な音が続く。だが、俺は最後まで聴いた。
 同じように最後までいたYAEの思いが、俺と同じな訳はないだろうが・・・・。
 そう言えば昨日の、最後の練習の中休みに、薫子がみんなに進行表を見せた時、あゆみは「 “White Heat”の次なの?」と言って、露骨に嫌そうな顔をしていたが、あれは何だったのだろう?
 それと、最後に練習したテイクで、冬美がエンディングのテーマを一人中断して、ヴァイオリンを顎で挟んだまま、キツイ目をして一点を凝視していたことが気になっていた。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-03-11 00:32 | 第二話 「青い光」
     九

 六月一日、俺は“underground garden”に行った。
 練習は前日で終わりということにした。
 イベントの初日、六時丁度から始まったライブには、二〇歳代の前後の若い客が集まっていたが、殆どの客はお目当てのバンドの順番に応じて店を出入りする奴等で、客席よりも店の出入口が混んでいる様にも思えた。
 出入り口で、坂本さんとアルバイトの女の子は、再入店の時に既にチャージを払っている証となる店のハンコを客の手に押すのと、「この階のフロアーとか、階段上がったところで溜まらないで下さーい」という声掛けで手一杯となっていた。
 「盛況ですね」と俺は言った。
 「何時もこれくらい入ってくれていたら、閉めなくても良かったんだけどね・・・・。ダメダメ、色気が出そうになった」
 坂本さんの表情は、サングラスに隠れて見えない。
 「客層も変わったろう?」
 「・・・というか、僕が出させてもらってた時、この店で会ったことがあるような連中の顔が探せないんですが・・・・」
 「そういうメンツは、みんな明日に回したからなあ。今日は、比較的最近出ていたバンドばかりだから。
 そういえば、さっき、鍛冶舎クンが来てくれてたけど、知り合いじゃなかった?」
 「・・・・そうですか」相変わらず、フットワークの軽い奴だ。
 缶ビールを片手にフロアーに入った俺は、それから三時間煙草に噎せながら、“The End of North”とは少し違う客層が密集する空間に、埋もれた。
 その箱は、俺が出ていた四年前とほぼ同じ装いを保ちながら、明らかによそよそしかった。
 箱が「お前など知らない」と言っていた。
 バンドは、どのバンドも上手かった。上手いし、パフォーマンスも計算されていた。みんな格好いいし、可愛いし、それなりに面白かった。
 だが、洗練されすぎていた。そして、俺の心にはあまり引っ掛からなかった。何か、乾いた感じがした。
 俺が出ていた昔の“underground garden”は、もっと硬質でストイックなパンクや、湿った日本の土着性のある地を這うような暗い音や、下手でもオリジナリティーがあれば良いという割り切りでアイデア一発で演ってる奴等とか、何時も見たことのない方法で電子ノイズをまき散らす奴とか、兎に角、聴いたことがない音をどう出すか、みたいな泥臭い拘りがあった気がする。まあ、俺以外の『南蛮』の連中は、そういう泥臭いのが苦手で、この箱を嫌がったのだが。
 ・・・・この感覚は、最早、古いのか?
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by jazzamurai_sakyo | 2009-03-04 06:44 | 第二話 「青い光」