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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 「・・・・ウチは儲かるから良いんやけどね」
 「そういえば、草ちゃんのことで、カミさんにお願いがあるんだけど」
 「金貸すのは嫌だぞ」
 「そうじゃなくて、今度、練習に付き合って欲しいの」
 「練習?」
 「セッションして、ジャズベースを教えてくれるっていうの。カミさん、フォービート得意でしょ」
 「得意じゃないよ」俺は一瞬、苛ついた。
 「だって、あんなに上手いのに」
 こいつ、俺のフォービートをちゃんと聴いて、そう言っているのか。
 半身になってこっちを向いているあゆみの目が、少しとろんとしている。・・・・今、何か言っても、ちゃんとした話にはならないな。
 「形をなぞっているだけだ」ブラウスの胸元をつい見やってしまった俺は、慌てて目を逸らして、ぶっきらぼうに言った。
 「まあ良い。どっちにしろ、リズム隊の練習は別に必要だと思っていたし、何故ピアニストがベースを教えるのかはよく分からんが、一度ウォーキングを勉強しておくのは、悪くない。何日だ?」
 「付き合ってくれる!ありがとう!あのね、草ちゃんが都合が良い日はね・・・・」あゆみは俺の方を向いて膝をくっつけ、カバンから手帳を取り出しにかかった。俺の鼻先で、あゆみの量の多い髪が揺れ、俺は二十センチ程、頭を引いた。
 ・・・・こいつ、天然なのか、結構危なっかしい。きっと、この酔った時の所作のせいで、誤解している男がかなりいるぞ。
 困って紫野山さんを見ると、俺の考えていることが分かるのか、少し口の端を上げた。
 その瞬間、あゆみの鞄の中で携帯電話が鳴った。
 一瞬の静止の後、あゆみは手帳ではなくそれを取り出し、番号の表示を見て素に返った。
 「どうぞ」と俺は言った。
 あゆみは「ごめんなさい」と真顔で言い、「もしもし」と言いながら店を出ていった。
 「こんな時間に誰ですかね」俺は座り直して言った。
 「あの顔なら、彼氏やない?」
 紫野山さんは、モヒカンの髪を撫で付けながら、煙草に火を付けた。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-11-25 01:22 | 第三話 「紫の指先」
     三

 「なあ、そろそろワリカンにならないか、・・・・飲み代」
 「ダメー」
 練習の帰り、俺はまた、あゆみと一緒に紫野山さんの店で飲んでいた。だが、何時もこの店で勘定を持つのは俺なのだ。何故、俺は何時もコイツと飲んでいるのか。それは一度、ちゃんとグルーブが合ってこないことを話し合っておかなければならないと思っていたからだが、何故か何時も言えないでいた。
 「あゆみ、お前、飲む時は常に他人の財布なのか」
 「そうよー。最近の例外を除いてね」
 「何だ、例外って」
 「最近、あゆみちゃん、困った爺さんにタカられてるんやわ」と、紫野山さんは言った。
 「爺さん?」
 「最近、良く来る客なんやけど、ピアニストなんやわ」
 「草ちゃんは、やたらピアノが上手いのよ」
 「ある日、終い際にあゆみちゃんと話してたら、ふらっと入ってきてなあ。かなり酔ってたから、『もう終いです』て言ったんやけど、『ジャック・ダニエルを一杯だけ飲ませてくれ』て言うから出したんやわ。暫く大人しく飲んでたんやけど、突然、 あれに近づいて、勝手に弾き出してなあ」と、紫野山さんは店の奥の古いアップライトを指さした。
 「ラグタイムっていうの。指がね、早足で逃げていく蜘蛛の足みたいにね、するするするするって交差して」
 「あゆみちゃん、その表現カナンわ。僕、蜘蛛苦手やから」紫野山さんは、細い目を余計にきつくして言った。
 「・・・・凄い速さなの。私、本当に感動しちゃって。
 ただ、私には分かんないんだけど、なんか気に入らない所があると、途中で止めちゃうの」
 「時々、引っ掛からはるんやわ」
 「それで、最後まで聴きたいって言ったら、『もう一杯、奢ってくれたら』って、言うもんだから、つい」
 「次の日には、道具持ってきて、ピアノ調律してくれてなあ」
 「それから、私が一時位までいる時に限ってやって来て、毎回『なんか弾くからおごれ』って言われて・・・・、大体その時間には私も酔ってるから、何時もつい気が大きくなって」
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by jazzamurai_sakyo | 2009-11-18 00:25 | 第三話 「紫の指先」
 冬美は、この前の打ち上げの時に見せた「乱れ」はもう見せず、毒舌に拍車がかかっていた。
 俺は俺で、最初のライブの時の、ジャズ・スタイルでの薫子との格闘を、もっと深めたい思いがあった。それで、また練習テープを繋げて編集した、ヴァイオリンをメインにしたインストの曲(これは、冬美が一部作曲を加えたりして形に成りつつあったが、構成にストーリーの必然性を欠いた部分が残っていた)の他、かなりジャズ寄りで、ちょっと長尺のジャズ・ロック曲を作ったのだが、これが気に入られ過ぎて困っていた。
 「いやー、この曲は遊べるなあ」と輝広は言ったが、薫子の「やっぱり、マニアね」の言葉には、少々複雑な思いがした。
 結局、あまり遊びすぎると飽きてくるということと、あゆみが、フォービートを弾くのに苦労していたこともあって、頭打ち状態だった。
 あと、問題が何点かあった。俺は以前から、あゆみとのビート感覚や、グルーヴに大きなズレを感じていた。練習を重ねれば合ってくるだろうと安易に考えていたが、どうやら、根本的な所で合わない部分があるようだ。曲の発展まで手が回らないのは、このことに少しいらだちを感じていたからかもしれない。
 金の面で言うと、俺はまた、レコードやCDを買うようになった。練習の合間の会話の中で、俺が聴いたことの無い名前が出る都度、俺は、奴等には密かに探してそれを買っていた。
 この出費は結構、馬鹿にならなかった。四人が四人とも、全く異なるジャンルを聴いていたからだ。
 加えて、京大オルタナ部のスタジオは、京大生の新入部員が増えて、予約出来にくくなった。半分は普通のスタジオになって、負担が増えたのはきつかった。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-11-11 00:07 | 第三話 「紫の指先」
     二

 俺の最近の悩みは、金と時間が無いことだった。図書館司書の仕事は給料が良い訳ではないのに、新たな出費に軽く悩まさせていた。
 “underground garden”ラストライブ・イベントの後、「癩王のテラス」は週に二日(月、木)、一回三時間程度練習をした。各人が持ち寄った新曲を仕込むことにしたのだが、これに時間を盗られていた。
 そのうち、あゆみが持ってきた歌物の曲は、メランコリックなメロディで、最初は「青い光」の様に弄っていたのだが、結局、原曲の雰囲気を残した小曲としてアレンジにした(もちろん、捻るべき所は捻ったが)。ただ、薫子が歌詞を書くのをやんわり拒否し、あゆみも歌詞を一向に持ってこず、加えてあゆみも薫子も歌うのを譲り合ったため、詰めが難航していた。
 デモテープに入れられたあゆみの声は、低く、ぶっきらぼうだったが、聴きようによってはSandy Dennyの様に聴こえなくもなく、意外に気に入った俺は、あゆみが歌うことを主張したが、・・・・なかなかウンと言わない。
 輝広が持ってきた、ブルースフィーリングの強い曲は何とかものになりそうだったが、これもインストのままにするのか、歌詞をつけるのか、輝広の意思がハッキリせず、ストップしていた。
 しかし、あゆみと輝広が持ってきた曲は、明らかに歌ものにすべき曲だった。正直、二人に歌ものが作れるとは思っていなかったが、薫子にやれといったこと、つまり、歌詞を書けと言ったことを、あゆみと輝広には言わずに済む訳でもない。
 ひょっとすると、あの曲=「青い光」に対して、あゆみと輝広の意識に、何か囚われの心が出来てしまったのかもしれない。
 その「青い光」には、薫子の当面の凍結宣言があった。
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by jazzamurai_sakyo | 2009-11-04 00:03 | 第三話 「紫の指先」