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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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     十

 やっぱり、私はバカな女よ。
 高校時代はホント、メチャメチャだった。私は全然、勉強しなかった。京都の公立高校って、基本は私服なんだけど、私の高校は新設で制服があった。それが、めちゃダサイの。あまり着たくなかったから、学校に行かなかった。出席日数はギリギリだし、理数系はボロボロだし、卒業できたのは不思議。
 何時もお姉さんの所に入り浸ってた。お姉さんはニューウェーブ系の評判のアルバムは全部買っていた。それを聴きながら、萩尾望都、竹宮恵子、吉田秋生、内田善美、三原順・・・・とか、そういうちょっと難しい系の漫画を読ましてもらった。時には買えと進められた本を持ち込んで読んだり。三島由紀夫は面白かったけど、セリーヌとか、バタイユとか、おフランスの作家はさっぱり分からなかったなあ。
 本当に楽しい日々だった。でも、私って、そういうの、長続きしないんだ。
 高校二年の夏、私とお姉さんと、お姉さんの彼と、その友達でバンドを組むことにしたの。お姉さんは大学検定は合格したけれど、彼氏の行ってる大学には落ちちゃって、浪人生だった。何度か練習して、彼氏の大学の学祭で演奏しようということになった。
 お姉さんの彼氏は賢い人で、格好いい人だったけど、ちょっと私は怖かった。Rolling StonesとDavid Bowieが好きで、ギターが上手かった。Stonesは、全部テープに録音してくれた。
 お姉さんと「彼氏」は好きな音楽がちょっとずれていて、練習は何時もケンカになった。最初の頃は言い合いだったんだけど、段々揚げ足取りみたいになって、どんどん冷たいケンカになっていくの。二人とも我の強い人だったから、譲れない所が多すぎたのね。今なら私も分かるんだけど、全く趣味が違う場合でも、良い所を合わせれば、相乗効果で良い音楽ができることも多いよね。でも、言っても仕方ない、みたいな冷たいケンカになったら、何も創造はされないよね。
 私はそれでも頑張ったんだけど、ドラムの人は合わせているだけって感じになっちゃって。曲もコピーの曲ばかりだったから、何も面白みの無い演奏になっちゃって。
 学祭の日、リハの時間を過ぎても、演奏の時間になっても、お姉さんは大学に現れなかった。「彼氏」は主催の先輩に酷く怒られた。「彼氏」とドラムの人は、私に飲みに行こう、と誘った。
 前の日に恐ろしく緊張のあまり一睡もできなかった私は、直ぐにでも帰りたかった。一方で、ライブのために、ちょっと頑張ってめかしてきて、がっかりした私もいて、一人で帰るのをちょっと躊躇ったの・・・・。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-05-26 01:25 | 第三話 「紫の指先」
 「例の似非ジャズ系イベントさ。今度は、箱が『Stride』なんだ。ジャズ系の箱で、ジャズのイベントだろ。薫子は断るつもりだったんだけど、呼んでた大物がキャンセルになって、時間が空いたからどうしてもと頼まれて弱ってたんだ」と輝広は言った。
 「神ノ内さんは、どうしても都合つけて下さい。井能さんは如何ですか」
 「スケジュールが奇跡的に空いています。リハーサルは無理そうですが。新幹線代は、ベースの席も含めて、別に払ってくれますね。それと、宿泊費用も」と、井能さんは言った。
 冬美と、あゆみは驚かない。さては薫子、俺だけに話を通さず事を運んだな。
 「あゆみ、お前、良い所、薫子に持って行かれたぞ」と俺は言った。
 あゆみは「勉強させてもらうわ」とだけ、言った。
 少し腹が立ったが、俺は薫子に「やるよ」と言った。だが、腹立ちついでに、「ただし、一曲あゆみが歌ってくれるなら」と注文を付けた。
 「え、なんでそうなるの。嫌よ」
 「おまえが出ないで収まると思うのか。この人間関係を作ったのは、おまえだろうが」
 「そんなこと言ったって、ピンで歌ったことなんてないし」
 「あゆみが歌わないんだったら、俺は出ない」と言い切ってみたが・・・・。どう出る?
 「あゆみちゃん、お願いします。今のままじゃ、華やかさが無くて浮きすぎちゃう・・・・」と言った薫子は、井能さんを見て、「ごめんなさい」と言った。
 「じゃあ、おまけ程度に一曲だけよ」
 「宜しくお願いします。深浦さんは?」
 翁は少し渋ったが、薫子が「今までの借りは返さないおつもりですか」と冷たく言ったり、「女の子のお客さんは多いと思いますよ」等と少々甘く言ったりすると、翁は「まあ、ギャラがあるなら出てやっても良い」と言わざるを得なくなった。
 「では、本番まで練習は無しです。選曲と構成は、希望を私に伝えて下さい。後日、やる曲と、簡単な楽譜及び構成表をファックスで送ります。では、本番で」と言い、薫子は覚めた顔で井能さんの電話番号を手帳に収めた後、すっと帰っていった。
 俺は、やられた、という気持ちを感じながら、薫子を見送り、そして、あゆみを飲みに誘った。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-05-19 01:11 | 第三話 「紫の指先」
 「相棒さんとのご相談は、まだ充分じゃ無いんですね」
 「草ちゃん。ちょっと良いかな」あゆみは言った。「草ちゃんはバッキングも上手いと思うの。どういう風にとは上手く言えないけれど。だから、演奏の中で、自分をどれだけ圧倒的に輝かせるか、じゃなくて、演奏全体を自分のものにして、共演者を活かす演奏と、その中で自分の演奏の魅力は何処なのか、その両方を、どう責任持って常に輝かせるか、っていうやり方が、今の草ちゃんに合っていると思うのよ。その、なんて言うかな、草ちゃんは自分に、右手に義務を課し過ぎていると思うのよ」
 「あゆみは、時々上手いこと言うな」と輝広は言った。「確かに、一歩退いて弾いている時のあんたは、怖い位に良い」
 あゆみの言った責任と義務の話って、この前、飲んだ時に考えていたことに似てるけど、俺、言ったっけ?。
 切れるかと思った翁は黙って右手をさすっていた。気の強い男が、年相応に、少し小さく見えた。
 「さて、お話はこれ位にして、もう一曲やりませんか。“Monk’s Mood”はいかが」と薫子は言った。
 「お嬢ちゃんは、どうもワシをMonk風に矯正しようというつもりらしいが、いらぬお節介だ」
 「いえ。深浦さん風で良いですよ。Bud Powell の『A Portrait of Thelonious』風でも良いですし。お好きにどうぞ」
 そういって、薫子はフルートを持ち出した。
 「まあ、良いわ」深浦翁は、ピアノの前で右手をこすりながら少し考えた後、ゆっくりとそのコードを引き出した。
 井能さんがゆっくりと付いていく。俺は、あまり得意じゃないブラシを引っぱり出した・・・・。
 酒を飲みながら、しっとりと聞き惚れる、という類の演奏にはなり得ないが、リラックスした中に緊張感のある、良い演奏だった。俺は、自分を殺し気味にして、音数を選んだ。
 深浦翁は時折、型に填らないように、かき混ぜようと地団駄踏んだが、要所で良く歌うフレーズを入れた。ブルーな雰囲気だった。
 ・・・・練習が終わって、精算をしている時、俺は「今日は、貸し借り無しですね」と、翁に軽口を叩いた。「まあな」と翁は言い、半額を支払った。
 会計から帰ってきた薫子は、並んで座る翁と井能さんの前に立つと、「深浦さん、井能さん。七月二七日の夜は空いていらっしゃいませんか。ギャラは私が払いますから、この編成でこのライブ、出ていただけませんか」と言い、スタジオの壁に貼ってあるチラシを指さした。
 「・・・・オクトパス・デ・ジャズ?」って何だ。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-05-12 05:12 | 第三話 「紫の指先」
 彼のバックアップを得た翁は、左手でベースラインの補助に回らなくてはならない枷が無くなって、やりたい放題だった。
 数曲は、薫子が休んで、ピアノ・トリオで演奏したりもした。翁のオリジナルの“Tempestoso Like Bud”も。だが、速いスピードの曲が続くと時折言うことを聞かなくなる右手に、苛立ちを隠せない様子だった。
 反対に、ミディアム・テンポで聴かせるソロ、バラードでのプレイの方が、コードの再構成、テーマ解釈にオリジナリティがあり、素晴らしかった。きらびやかな右手に魅せられてしまうけれど、実は左手の仕事が器用で堅実なのだ。
 中休みに、持参のお茶を飲みながら、冬美は言った。
 「じいさん、下手だね。左手はまあ、ジャズやる程度なら使える程度にマシだけれど。右手はどうかなあ」
 「そうかあ。俺は上手いと思ったけどなあ」と輝広。
 「傷のある薬指に負担をかけない奏法を考えたら。小指にも負担かけちゃって、腱鞘炎気味でしょ。あまり無理し続けたら、小指の方が先に駄目になっちゃうよ。まあ、演奏のアプローチから見て、根本的な変更を余儀なくされるだろうから、年寄りにはキツイだろうけど」
 「君達は、ワシを馬鹿にしとるのか、薫子さんよ」きつく睨む翁の目を気にもせず、冬美は茶を飲んだ。
 「冬美ちゃんに言わせると、大抵の人は下手なんです。
 すみません、私達の中で一番口が悪くて。
 でも、指のことは間違っている訳じゃないのでしょう?」
 「・・・・まあな」と翁は言った。
 「この人は医者嫌いでね」と井能さんが言った。
 「薫子、君、医者の娘なんだから、良い医者紹介してやれよ」と冬美は言った。
 「ご紹介するくらいは出来ますが、今から手術して根治治療、という事にはならないでしょうね。外科治療としては、日常生活のレベルで完治しているようだから」
 「騙し騙し使うしかないそうだ。・・・・洒落臭い。そういうのが一番嫌いだ。アドリヴは一瞬の閃光だ。それを弱めることは、ワシの生き方でない」
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by jazzamurai_sakyo | 2010-05-05 05:05 | 第三話 「紫の指先」