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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 “俺が一緒にやってきたベーシストは、エゴを出せないヤツばかりだった。”
 じゃあ、演奏が上手くて、かつエゴを示せるベーシストと演奏する時には、今のように、一歩、退くというのか。
 ひょっとして俺は、ベーシストの奏でる音楽が、よく分かってなかったんじゃないか。
 バンドの中で退いた存在だと、リズムを司るのは自分だと、ベースは自分の支配下にあるものだと、無意識に思っていたんじゃないか。
 そういう奢った気持ちがあるから、責任感ではなく、義務感に支配されるんじゃないのか。
 今、俺が聴いている井能さんの演奏と、あゆみの演奏の違いは何だろう。確かに技術の差はあるだろう。だが、井能さんだって、あゆみのようにはファズの効いた音は鳴らせないだろう。
 俺が知っているのはそれだけで、実は俺はまだ、あゆみの本当の音楽を知らない。
 あいつは父親の存在という圧迫感の中で、自分の解放を探るためにベースを手にしたんだろう。
 そして、薫子と、冬美と、輝広という、性格は悪いにしても開放的な考え方を持っている(だろう)共演者を得た。だが、最も理解してやるべき楽器を演奏する俺は、未だ昔の硬い考え方に縛られている・・・・。
 俺が、そういう固執から自分を解放してやることが、あゆみを解放してやることになるんじゃないか。
 夢の中で黒猫のエリックは言った。“形式として自由を求めれば、すぐさま、抑圧は君を取り囲み、飼い慣らすだろう”と。俺はまだ、型に填めて考えすぎているんじゃないか。
 そんなことを閃いていた時、アルトを抱えて、俺を見る薫子に気が付いた。右手を小さく振って、ビートをキープしている。
 うん。冷たいけど、優しい目だ。ありがとう。その視線が俺を覚醒する。残りの小節は少ないが、俺は退くのは止めた。
 もっと良く聴いてみよう。そして、相手の共犯者となるんだ。
 俺は井能さんの一瞬の間を捉えてハイハットで切り込む。
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by jazzamurai_sakyo | 2010-09-15 00:45 | 第三話 「紫の指先」
     十二

 俺は軽くフィルしてシンバルをそっと揺らす。
 最後はまた、アルコのベースをバックに、薫子がテーマを変奏する。ゃっぱり、このアレンジなら、フルートのソロを先にした方が良かったか。
 だが、井能さんがしっかりとテーマを奏でてくれたおかげで、上手くまとまった。カデンツァは、無しだ。
 ふん。今度は結構な量の拍手があった。冬美は拍手しない。
 俺は薫子がアルトに持ち替えるのに、ドラムの側に来た時に言った。「冬美が睨んでるぞ」
 「嫉妬よ。ああいう時は気にしない方が良いわ。・・・・触ったら切られるだけ」と薫子は言った。
 嫉妬って、お前らやっぱり、付き合ってんの?
 などと考えている間もなく、井能さんが速いテンポでウォーキングした。やっぱり、フォービートに関しては、この野太さは、あゆみにはまだ出せないな。
 Harbieの“The Sorcerer”。この曲は翁のリクエストだ。きっと挽回するつもりなのだろう。
 薫子は例の不敵なテーマを、この前よりも切れ重視で吹いた。俺はより乱暴に入っていく。そして、テーマの終わりに入る部分で、派手におかずを入れてやる。
 それを無視して、翁はトンと美しく冷静にコードを入れた。
 そして、もう一度、右手のシングルトーンとアルトのユニゾンでテーマを繰り返す。ベリー・クール。俺も嫉妬かな。変則的なおかずを入れてやったが、二人は崩れない。そしてまた、左手がコードを美しく落とす。
 ベースが躍り出た。ソロは井能さんからだ。
 うーん、凄いな。上下の跳躍と、楽器の鳴らせ方が圧倒的だ。
 なんという開放感、なんという歌いっぷり。おっと、うっかりするとリズムを失いかける・・・・。俺も応じるか。いや、今日はもう少し大人しくしよう。せっかく、尊敬できるベーシストと共演しているのだから・・・・。
 待った!
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by jazzamurai_sakyo | 2010-09-01 23:37 | 第三話 「紫の指先」