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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 俺は、苦手なドラムソロを敢行する。短いようで長い四小節。
 そして、薫子のソロ。圧倒的な。
 本当はピアノソロの後に来るはずのフォーバース(四小節交換)。つまりの、薫子と俺との、「入れたり出したり」。
 俺には、ドラムソロを長く続ける程の、気の利いた芸はない。
 だが、薫子は容赦してくれない。
 俺が客なら、おまえのファンなら、きっと真正面でおまえの生音を浴びる今この瞬間を、恐ろしい快楽と思うだろう。
 今の俺には、それを感じる余裕はない。
 ただ、お前に甘えず、お前に引きずられず、お前を拒否せず、お前の美しさと、俺の全ての、両方を輝かせるために、俺がやれることは何か。ただ、それだけを考えてスティックを振り、ペダルを踏む。
 薫子は、ドラムソロを、俺を冷徹に見ている。
 冷徹だが、軽蔑のない、例の温度で。
 俺は、お前のその視線が好きだ。一瞬たりとも、気の抜けない、緊張感が。
 お前が、俺を、いや、他人を、入り口から拒絶する人間で無いことが、分かっているから。
 お前は、あゆみを取り戻すために、ボイドと対決した。
 そのことを話す時に見た、頬の赤らみは、決して、ボイドを人間として無視した者に現れるものじゃなかった。
 無視は苛烈なノン。対決は相手を意識するノンだ。
 だから、お前はきっと何処かで、ボイドともう一度、「出会う」つもりだろう?
 だが、音楽の場でお前と出会う人間は、お前と対等に話せる技術と力がなければ、ただひれ伏すか、無視するかしかない。ひれ伏せば薫子は興味を失い、無視すれば蹂躙しようとするだろう。
 ・・・・四回のフォーバースが終わる。今日の俺は、防戦一方だが、俺は絶対にお前に支配されはしない。例え傷付こうが、俺はお前と切り結ぶのが楽しいからだ。きっと、他の三人もそうだろう。
 終わりのテーマに戻る時だ。薫子はフレーズをまとめた。
 俺へのまなざしは何か言いたげだ。だが、今は翁へ振り向いた。翁も俺たちを見ていた。
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by jazzamurai_sakyo | 2011-02-02 10:00 | 第三話 「紫の指先」