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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

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 被せて入った翁のフレーズは軽やかだった。右手がメロディーを紡ぎ出す。左手が寄り添い助ける。時々右手が言葉足らずになりそうな時、左手がそれをしっかりと説明するフレーズを紡ぐ。そして、さらに右手はジャンプしていく。
 右手がアイデアを提示し、歌い切れない所は、左手が十分に歌って、ストーリーを完璧なものに近づけていく。
 そう、「アドリヴは一瞬の閃光」。示されたその光の先へ、倒れることなく右手と左手は先頭を譲り合いながら、走り去っていく。それがとても美しい。
 薫子が笑っている。なんて無邪気に、子どもの顔で。
 このジジイは、もう心配なさそうだ。やれやれ、また厄介で魅力的な知り合いが増えてしまったようだ。
 そしてピアノソロが終わる。テーマに帰る手前で、左手にフレーズを歌わせながら、翁は立ち上がり、薫子と俺を指差す。“ワンコーラス、二人でやれ”と。
 すぐさま薫子が翁をリスペクトしたような流麗なフレーズを吹く。俺は、少し驚いたが、アクセントを付けて次の小節へ。
 そうか。まだ楽しんで良いのか・・・・。
 翁と、井能さんが俺を見て笑っている。しまった、嬉しげな顔でもしていたのだろうか。どうせガキですよ、三十前なのに。
 と一瞬考えたのもつかの間、俺は二人の世界に入っていく。
 俺は薫子を見つめる。コードの呪縛から離れようとして、でも曲想が提示する世界を否定することなく、自由に飛び回る薫子の音と、指と、頬と、唇と、目を。
 なんて美しいんだろう。そしてなんて怖い。
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by jazzamurai_sakyo | 2011-03-02 08:30 | 第三話 「紫の指先」