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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

 「責任感が強いと思われている殆どの人は義務感が強いだけで、責任感じゃないんだってさ。まあ、俺もそうみたいだな。雑多な細かい気がかりばっかりで。真っ新の頭で演奏したいなあ」
 ・・・・そうかな。昔のあなたは知らないけれど、今はそうじゃないんじゃない。「軋轢を楽しむ」位なんだから。
 でも、知らない女の話をされるのは、何かむかつくから、言わないでおこう。
 「ねえ、私が傷つけた、『最初の彼のお姉さん』は、『アイデアと、それを実現できる方法を探す気さえあれば、自分だけの世界を作ることが出来る』と言ったの。私は、その言葉が大好きなの。
 もちろん上手くなりたいけれど、今までに聴いたことの無い音楽がやりたいわ。だって、それが出来そうな、私たち五人じゃない?」
 「そうだな。出来る限り、みんなのアイデアで曲を作りたいよ。
 楽器演奏者である限り、曲の中で、自分をどれだけ実現できるかは必要だよ。けれど、演奏全体を自分のものにして、共演者を活かす演奏とか、構造を作る力も必要だ。
 もちろん、お情けは要らないけれど・・・・。
 ただ、その両方を、どう責任持って常に輝かせるか、っていうのは、大事なことだと思う。
 みんなで曲を作っていくためには。・・・・難しいことだけどね」
 そういえば、私は以前、携帯電話で遮られた時、貴方にこう言いたかったんだ。
 「私、あのライブで、カミさんのこと、尊敬したんだ。
 勿論、輝広が珍しく我を押さえて、カミさんのコンセプトに寄り添って、ギターでかっちりバッキングしていたことも良かったけれど、カミさんのドラムがポイントを押さえてくれたから、ちゃんと帰って来られたんだなって。
 私、音楽が一端壊れかけたら、後はバラバラになるだけだって、思っていた。そんな音楽しか演奏したこと無かったし。
 破綻すれすれの混沌の入り口から、何度も新しい服を着て、帰って来たなんて、今まで、経験した事、無かった。
 ホント、感動したんだ」って。
 あれ、寝ちゃったの。先に送らせるのかよ。もう。
 結構、可愛い顔してるなあ。
 ・・・・あれ、なに。やだ。ドキドキする。
 ・・・・ヤバイ。私、この人に惚れかけてるみたい?

 (第三話 終/二〇一一年七月十一日)
# by jazzamurai_sakyo | 2011-12-07 07:00 | 第三話 「紫の指先」
 カミさんは、場所だけ言って様子を見ている。
 「行き方を言わないの?酔っぱらいって、足下見られるから危ないんじゃない」
 「まあ、寝てしまって、全く見当の付かない所で下ろされたことはあるな。百万遍の知恩寺の前で引きずり下ろされて、膝を擦り剥いたこともあったし」と小声で言った。
 「でも、相手がどう出るか、見てるのも楽しいからな」
 「楽しい?」
 「全部自分で決めてしまうのは面白く無いだろ。そんなにぼられた事も無いし。遠回りされそうで、ヤバイ時は言うけれど。
 積極的には話しかけないが、運ちゃんと話をすることも楽しいな。時々、十円単位ならまけてくれる人もいるぞ」
 「ふーん。
 ・・・・ねえ、関係の無い話をして良い?」
 「・・・・いいよ」
 「私が今、付き合っている人は、全部自分で決めてしまう人なんだ。仕事もね、責任感が強いっていうか、他人に任せて破綻した時に顧客に迷惑をかけるのが嫌だって言って、企画や資料作成とか、主な仕事は抱え込んじゃって、部下には雑用しか頼まないの」
 「ふーん」
 「私、そういう責任感の強い人に弱いのよね」
 「そうか。でも、それって責任感かなあ。義務感じゃない?」
 「義務感?」
 「俺が以前、付き合っていた子は、会社勤めしながらバンドでキーボードをしていたんだけれど、その子がよく言ってた。
 あゆみの彼氏は、机の上、整頓されてる?」
 「資料いっぱいで、あまりされてない」
 「本当に仕事ができる人は、机の上がキレイに整頓されているんだって。仕事の根幹は部下にやらせて、ポイントだけ頭に入れて、それをチェックするだけで、後は部下に任せちゃう。だから些末な資料は手元に置かない。その代わり、失敗したら、部下の責任、全部引っ被るんだって。そういう人が、本当に仕事ができて、責任感のある人なんだって」
 「そう・・・・」
# by jazzamurai_sakyo | 2011-11-02 08:00 | 第三話 「紫の指先」
     十六

 ・・・・付き合っていた人は、私がバイトしている事務所の正社員だ。
 彼は、何時も怒りを抱えていた。彼は何時も何かに熱中し、全てを理解しようとし、全てを分かってもらおうとし、全てを解説しようとした。それに反して、他人がその問題を分からないことに、彼の熱い思いを理解できないことに怒っていた。
 でも、それは仕方のないことだった。だって、話している言葉が違うんだもの。何かを変えようとしてもがく人と、安穏として前と同じ方法でスルーしようとする人では、自ずと話す言葉が違ってくるんだから。
 彼は、目の前で、今の自分の理想的な形が、自分のできる限り動いていなければ気が済まなかった。確かに彼は、職場の誰よりも努力しようとしていた。でも、体力や気力や家庭のちょっとした不都合が、彼の意欲を削ぎ、そして彼もその糸を辿って、逃げ込んだりして、弱いところを見せた。
 でも、私は彼の子ども染みたやり口が、どちらかといえば好きだったから、度々、彼の仕事を手伝ったりした。
 そして、その仕事のお礼に、飲みに連れて行ってもらって、色々話をした。最近の若い子は、口うるさい人と飲みに行くのを嫌うけど、私は美味いお酒を飲ませてくれて、なおかつコストパフォーマンスが良い店に連れていってくれるなら、別に気にしない。店が悪かったら、直ぐ帰るけどね。その意味では、彼の行く店はみんな良かった。
 後、私は彼のおかげで、あまり好きでなかったクラシックが聴けるようになった。
 彼はマーラーを愛した。マーラーを愛する自分を愛した。どう考えてもナルシストよね。他人を信じられず、周りから浮いてて、上手く行かないことが多くて、ストレスを抱えて・・・・。
 私は彼のことをちょっと気の毒に思ってた。そうこうしているうちに、心の中に入り込まれちゃった。だって、彼は甘えるのが上手いんだもの。
 でも、私は、あの人の責任感というか、完璧主義が段々居心地悪くなってきていたの。
 彼は、タクシーに乗る時、行き先を運転手に告げない。
 全部、道順を説明する。
 「最短で行く。タクシーの運転手は、距離を稼ぐために客を騙して変な所を通るからな」と聞こえるように私に言う。
 私は、家まで送られる時、それが何時も嫌だった。別れるための最短の時間を選ばれている感じがしたのも嫌だったし、全部自分のコントロール下に置かないと気が済まないような彼の態度に、何か違和感があった。
# by jazzamurai_sakyo | 2011-10-05 00:04 | 第三話 「紫の指先」
 「俺もそう思う。破綻すれすれの一発勝負。結局、ジャズの魅力はそれだよ。それを再認識した翁は、怖いものなしだな。
 あの音は、熱いから、きっと音楽で飯が食えるようになるよ」
 「ふふ」「なに?」
 「カミさんも相当よ」「そうかな」
 「ちょっと良い?」
 「何?」を訊くつもり?
 「あのね。私が日頃、どんな音楽を聴いて、演奏しているのかなんて、あの人には関係なかった。あの人の好みの型にはまった私を好んだだけで、ライブハウスでベースを弾くような私は好きじゃなかったのよ」「そう」
 「でも、私は本当と思える喜びを知ってしまった」
 「うん」そうだろうな。
 「だから、・・・・もう、帰れないんだ」
 俺は、あゆみを見た。憑き物が落ちた顔があった。
 俺は、「お前、また歌えよ。歌、良いよ」とだけ言い、照れ隠しにあゆみの肩をポンポンと叩いた。そして、俺達は飲み続けた。
 「お、今からバンドネオンを入れて、オリジナルを演奏するってさ」「へえ」
 「ふんふん。このオリジナルはマシだな。こんなのもっとやれば良いのにな」
 「きゃははは」「何がおかしい」
 「音楽バカね、カミさんは。それとも、私に気を使ってる?」
 「そういう訳ではないが・・・・」
 「バレバレよ。面白いわあ。
 ねえ、私もさ、バレてると思うけど、伸びては縮むバンドネオンみたいに、気持ちが行ったり来たりで、安定しないのよ。
 ・・・・これ以上、バンドにいると、迷惑がかかると思う」
 あゆみは目を伏せて、言った。
 おっと、まだテイク・オフしてなかったか。
 「似合わないから、自分をクサすのも大概にしろ。終いには怒るぞ。・・・・そうだな、落ち込んだ時は、この前アンコールで歌ったように、『何時でも電話して。君には友達がいるんだから』」
 俺はそう言って、あゆみの頭を軽くポンポンと叩いた。
 「・・・・じゃあ、カミサンも携帯電話、持ってよ」
 「俺は、そんなもんに使う金ないよ。個人練習で出かけてる時以外は、夜は殆ど家にいるから」
 「分かった。何時でも良いのね」
 「・・・・やっぱり深夜二時以降は非常事態だけにしてくれ」
# by jazzamurai_sakyo | 2011-09-07 20:00 | 第三話 「紫の指先」
 「なるほど、一バンド一曲ずつね。あれ、うちが二枚目トリで、・・・・この演奏時間。ひょっとして、まるまる入ってるの?」
 「その通り。十八分四十二秒。『青い光』が、イントロの冬美ちゃんの即興も含めて、全部入ってる」
 「信じられない。歌の部分だけだと思ってた」
 「私も。よっぽど気に入られたみたいだわ」
 「・・・・他のバンドに悪いな。全然、出演してなかったのに」
 「YAEが強力に押してくれたんだって」
 ・・・・あいつ、やってくれたな。「かけてもらおう」
 いい音だ、とは言えなかったが、メリハリのある録音だった。ラインの音だけじゃなくて、ちゃんと外の音もミックスしてあった。やっぱり、この四人は・・・・「凄いな」。
 「私も、凄いと思うわ。カミさんのドラム」
そうじゃなくて。あゆみの粘っこいグルーヴ感が改めて凄い。
 「・・・・こうやって聴くと、俺達、合ってないわけじゃないな」
 「私もそう思った」
 「ベースが良く歌ってる」
 「そう? ただただ必死よ」
 「神ノ内さん、何だか良く分からない曲だけど、この演奏良いじゃない。くれるなら、店で宣伝するけれど?」と「紫煙」の姉さんは言った。
 「千枚作って、実はもう、何故か在庫があまりないそうです」とあゆみは言った。

 翌日、俺は仕事を終えて、梅田の大阪ブルーノートへ。
 俺達は、その若い日本人ピアニストの指使いがよく見える席に並んで座り、赤ワインのボトルを飲んだ。彼は、巧かった。きっと、深浦翁より、指使いは器用だっただろう。
 でも・・・・。俺は死ぬ程、退屈だった。若いくせに、癖のない歌物のスタンダードばっかりやりやがって。
 「退屈ね」食い入るように聴いていたくせに、あゆみもそう言った。
 「・・・・結局、あの人はこういうちゃんとした所で、綺麗な音を聴く人なのよ」「そう」
 「私、草ちゃんの方が、断然好きだな」
# by jazzamurai_sakyo | 2011-08-03 00:40 | 第三話 「紫の指先」