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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第10節の5

 鍛冶舎は、コンパクトに4曲を演り、最後に次のライブの告知だけして、一瞥もせずに出ていった。
 入れ替えの時に俺はあゆみに言った。「いなくても、あの曲を演るしかない」と。あゆみの眉間には皺が入り、輝広は何時もの他人事のような顔付きで頷いた。
 次の“White Heat”のメンバーは、ベースの女の子を除いてオッサンだった。そのうち、黒い服で身を固めた、少し禿げて腹の出たオッサンが、リッケン六二〇を抱えたまま、サングラス越しにあゆみを見て、少し驚いた表情をした。
 「・・・・お久しぶりです」とあゆみは言った。
 「懐かしさで、俺を見に来た訳じゃ無さそうだな」
 強い酒と煙草でつぶれた声で彼は言った。そして、サングラスを少し下げ、フレーム越しにあゆみを見た。鋭いが、視点の少し定まらない、濁った目だった。前の歯の何本かが、安物の差し歯なのが分かった。
 「ボイドさんの次に、出るんです。・・・・この人、ドラムです」と言って、あゆみは、俺の背中に隠れた。
 「一緒に演っているのか・・・・。今後とも宜しく」と言って、彼は俺の右肩に手を置いた。
 何かあったのか・・・・。あゆみは、一見気が強く見えるこの女は、俺のシャツの裾を握って小さくなっていた。
 ボイド氏のバンドは、古いニューヨーク・パンク風の演奏に、泥臭い日本語の歌詞を乗せた、・・・・想像した通りの演奏だった。“東京ロッカーズ”の時代、こういうバンドは結構あった。後は、どういう風にテイストを切り取って、自分のモノにするか。ベルベット風にヘタウマで行くのか、テレビジョンみたいにギターのアンサンブルを聴かせるのか・・・・。
 俺は、ボイド氏の歌には、ピンと来なかった。
 曲間であゆみは言った。「ボイドはショーケンが好きなのよ」
 “ショーケン”って、萩原健一か。オマエの年齢で、その呼び方を知っている女の子なんていないんじゃないか。
 ふと、袖を引かれて振り返ると、後ろに薫子が立っていた。
 “どうした”と声に出さずに言った。
 “冬美ちゃんが来ないけど、どうする”
 その目には動揺が無い反面、テンションの高まりも無かった。
by jazzamurai_sakyo | 2009-04-15 00:44 | 第二話 「青い光」

by jazzamurai_sakyo