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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

jazzamuray.exblog.jp

1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第二話 「青い光」 第11節の2

 あゆみがベースを背中に回し、エレピでコードを落とす。
 テープに忠実に。
 輝広は、時折、水滴の様な音の粒を落として、波紋を作る。
 冬美の弾くイントロが重く音場を支配する。俺の意図したことではあったが、少し重すぎる・・・・。
 気が付くと、薫子はフルートを抱えながら、俺を見ていた。
 このパートでは叩かない俺は、その瞳を見返した。
 俺は口を動かした。“歌え。後戻りは出来ない”と。
 薫子はコクンと頷き、振り向いた。

 「 思いは決して死なない
   旅に終わりはないから
   覚悟は決して絶望しない
   望みは絶えないから
  
   澱んだ土を蹴り 私は船に乗る
   帆は光を受ける
   青い光
  
   幾千年の月日が経とうとも、私は決して死なない
   光に抱かれて、船は永久に流離う」

 間奏で、練習で弾いたことの無い、印象的なフレーズを、短く輝広が弾き、俺は驚いた。
 俺には、歌詞の意味が全く分からなかったのに、輝広のフレーズが、まるで、それを全て理解しているようだったから・・・・。
 そして、冬美は、フレーズに寄り添い即興しながら、間奏の終わりで、仄暗く薫子を導いた。
 俺の心に、その影が落ちた。

 「 古傷は決して治らない
   火が絶えることはないから
   私は流離うしかない
   後悔が積み荷とならないように
  
   友よ、手を握り、岸を離れよう
   迷い猫を探して
   青い光 」

 緊張感から身動ぎ出来ず聴き入っていた俺は、その時、冬美が恐ろしい目つきで薫子を睨んでいるのを見た。二番サビ前のブリッジの間、冬美はあゆみとユニゾンしながら、ずっと薫子を見ていた。

 「 幾千年の月日が経とうとも、おまえは決して死なない
   思いが波立つ海で、私達はまた出会うだろう・・・・ 」

 サビの裏側で印象的なメロディーを弾いていた輝広が、歌が終わった所から、音色を変え、ギターでコードを出す。
 イントロのコードの繰り返しを。
 あゆみは、エレピからベースに持ち変える。そして、ゆっくり大きなリフを弾き始める。
 その中に、薫子のフルートが流れ出す。
 冬美はエフェクトを調整する。そして、客席の中に降りて、YAEの横まで行き、自分のバランスを確認した。
 YAEが、冬美をじっと見ている・・・・。
 冬美は、複数の弦を弾き、コーラスで増幅させ、メロトロンの様な音の壁を作り始める。
 ・・・・自分でこの構成を考えたにもかかわらず、俺は、完全に取り残されて、戸惑っていた。
by jazzamurai_sakyo | 2009-05-06 22:40 | 第二話 「青い光」

by jazzamurai_sakyo