第三話 「紫の指先」 第五節の2
俺は少し当惑したが、この前、飲んでいた深夜に、携帯に電話してきた男が、訳ありの男であろう事は、推測していた。
「・・・・冬美、おまえのせいでライブの予定が決められなかったな」
俺は、あゆみの話を気にしない振りをして言った。
「薫子、今は出る気は無いんだろう?」と冬美は言った。
「今の所はね」薫子は、冬美を見て言った。「今は中途半端なことはしたくない」。
そして、急に俺に振り返って言った。「ねえ、神ノ内さん、あゆみちゃんとスウィングのレッスンをしてるって、本当?」
「ああ? ただのフォービートだよ。変なジイサンにシゴかれてるんだ。明日もね」
「そのレッスン、私も行って良いかしら」
えっ。「・・・・良いんじゃないか」薫子の目が何か少し言いたそうにしている。俺は目を逸らした。「ライブはどうするんだ」
「明日のレッスン次第ね」えっ。「どちらにせよ、“癩王のテラス”での出演は無理よ」
「僕、帰るよ」冬美は立ち上がった。「眠い」
・・・・「薫子、高校生にはちょっと悪いんだが、今から少し、時間くれないか」
冬美はタクシーで帰り、輝広は大学に戻った。プジョーのクロスバイクの荷台にアルトとフルートを括り付け、跨ろうとしていた薫子に、俺は声をかけた。
「なんでしょう」ジーンズの細い右足が下ろされる。
「あゆみの事なんだが」
「・・・・自転車、ちょっと押して行きましょうか」「ああ」
「東大路を北に」
・・・・七月初めの、京都独特の湿った熱が、百万遍の交差点にこもっていた。信号待ちで、俺は言った。
「薫子、お前はどう思ってるか知らないけど、俺とあゆみは合わないよ。気持ち良いと思えるグルーヴが、全然違うんだ。
今の状態で、これ以上、あゆみとやるのは、ちょっと難しい」
薫子は、俺の目を見て言った。
「神ノ内さん、私は気持ちの良いグルーヴを求めて一緒に演奏している訳ではないんです。それが欲しいなら、他で求めて下さい」怒っている訳ではないが、冷たい声だった。
「・・・・冬美、おまえのせいでライブの予定が決められなかったな」
俺は、あゆみの話を気にしない振りをして言った。
「薫子、今は出る気は無いんだろう?」と冬美は言った。
「今の所はね」薫子は、冬美を見て言った。「今は中途半端なことはしたくない」。
そして、急に俺に振り返って言った。「ねえ、神ノ内さん、あゆみちゃんとスウィングのレッスンをしてるって、本当?」
「ああ? ただのフォービートだよ。変なジイサンにシゴかれてるんだ。明日もね」
「そのレッスン、私も行って良いかしら」
えっ。「・・・・良いんじゃないか」薫子の目が何か少し言いたそうにしている。俺は目を逸らした。「ライブはどうするんだ」
「明日のレッスン次第ね」えっ。「どちらにせよ、“癩王のテラス”での出演は無理よ」
「僕、帰るよ」冬美は立ち上がった。「眠い」
・・・・「薫子、高校生にはちょっと悪いんだが、今から少し、時間くれないか」
冬美はタクシーで帰り、輝広は大学に戻った。プジョーのクロスバイクの荷台にアルトとフルートを括り付け、跨ろうとしていた薫子に、俺は声をかけた。
「なんでしょう」ジーンズの細い右足が下ろされる。
「あゆみの事なんだが」
「・・・・自転車、ちょっと押して行きましょうか」「ああ」
「東大路を北に」
・・・・七月初めの、京都独特の湿った熱が、百万遍の交差点にこもっていた。信号待ちで、俺は言った。
「薫子、お前はどう思ってるか知らないけど、俺とあゆみは合わないよ。気持ち良いと思えるグルーヴが、全然違うんだ。
今の状態で、これ以上、あゆみとやるのは、ちょっと難しい」
薫子は、俺の目を見て言った。
「神ノ内さん、私は気持ちの良いグルーヴを求めて一緒に演奏している訳ではないんです。それが欲しいなら、他で求めて下さい」怒っている訳ではないが、冷たい声だった。
by jazzamurai_sakyo
| 2009-12-30 00:14
| 第三話 「紫の指先」