第三話 「紫の指先」 第五節の3
それはそうだな。そのために集まっている訳では無いだろう。
「・・・・ごめん。取り乱したことを言った。だが、あいつも同じ理由で悩んでいることは、恐らく事実なんだ」
「・・・・分かっています」
信号が青に変わった。少し風が吹いた。
薫子と俺は、横断歩道に自転車を押し出す。
「私は、グルーヴには興味が無い。ただ、緊張感の中で覚めていたい」薫子は前を見たまま言った。
こいつはそうだろうな。「そうでなきゃ、こんなに趣味と出自がバラバラの人間を集めて、バンドなんか組まないだろうな」
「神ノ内さんは、何のために演奏するんですか」
俺は躊躇った。薫子は、渡りきった所で止まった。
・・・・ファン、とクラクションの音がした。信号が変わりかけている。薫子は、俺の肘に触れて言った。
「自転車、歩道に乗せて」
「ああ、すまない・・・・。ちょっと、思考停止に陥った」
「・・・・行きましょう」
カラオケ屋の店先から、安物のJ-popが流れてくる。
「薫子とあゆみは、どうして知り合ったんだ」
「質問に質問を返すのは反則です」
「ごめん」
薫子はクスリ、と笑った。「謝ってばっかりですね。
まあ、いいわ。
初めてあゆみちゃんと会ったのは対バンで、去年の今頃かな。
黒服で固めたギター・ボーカルのおじさん、ケミカルウォッシュのジーンズを履いたギターのおじさん、変にキュートな服着たドラムのおじさんに一人混じってベースを弾いていたのが彼女だった」
「それ、“White Heat”のヴォイドのことだろ。そもそも何であゆみは“White Heat”に入って、ヴォイドなんかと付き合ってたんだ?」
「知らない。直接、あゆみちゃんに訊いて下さい」
薫子はウインクした。・・・・俺は少し怖かった。
「彼のやりたい事は、多分、Richard Hellとか、ニューヨーク・パンクなんでしょうね」
「ニューヨーク・パンクのムーブメントの頃なんて、薫子は生まれてないだろ。聴いた事、あるのか」
「・・・・ごめん。取り乱したことを言った。だが、あいつも同じ理由で悩んでいることは、恐らく事実なんだ」
「・・・・分かっています」
信号が青に変わった。少し風が吹いた。
薫子と俺は、横断歩道に自転車を押し出す。
「私は、グルーヴには興味が無い。ただ、緊張感の中で覚めていたい」薫子は前を見たまま言った。
こいつはそうだろうな。「そうでなきゃ、こんなに趣味と出自がバラバラの人間を集めて、バンドなんか組まないだろうな」
「神ノ内さんは、何のために演奏するんですか」
俺は躊躇った。薫子は、渡りきった所で止まった。
・・・・ファン、とクラクションの音がした。信号が変わりかけている。薫子は、俺の肘に触れて言った。
「自転車、歩道に乗せて」
「ああ、すまない・・・・。ちょっと、思考停止に陥った」
「・・・・行きましょう」
カラオケ屋の店先から、安物のJ-popが流れてくる。
「薫子とあゆみは、どうして知り合ったんだ」
「質問に質問を返すのは反則です」
「ごめん」
薫子はクスリ、と笑った。「謝ってばっかりですね。
まあ、いいわ。
初めてあゆみちゃんと会ったのは対バンで、去年の今頃かな。
黒服で固めたギター・ボーカルのおじさん、ケミカルウォッシュのジーンズを履いたギターのおじさん、変にキュートな服着たドラムのおじさんに一人混じってベースを弾いていたのが彼女だった」
「それ、“White Heat”のヴォイドのことだろ。そもそも何であゆみは“White Heat”に入って、ヴォイドなんかと付き合ってたんだ?」
「知らない。直接、あゆみちゃんに訊いて下さい」
薫子はウインクした。・・・・俺は少し怖かった。
「彼のやりたい事は、多分、Richard Hellとか、ニューヨーク・パンクなんでしょうね」
「ニューヨーク・パンクのムーブメントの頃なんて、薫子は生まれてないだろ。聴いた事、あるのか」
by jazzamurai_sakyo
| 2010-01-06 23:21
| 第三話 「紫の指先」