第三話 「紫の指先」 第六節の2
「ええ」
「橘君には、即興するための度胸が一番必要なんじゃ。どうじゃ、何か四人でやってみるかね」
「良いですよ。じゃあ、深浦さん、Harbie Hancockの“The Sorcerer”って曲、ご存じですか」
「君、Milesは嫌いだったんじゃないのか」と、俺は思わず言った。
それは、Miles Davisが一九六七年に出した、当時全盛のフリージャズの喧噪とは、真逆のクールな同名タイトル・アルバムに入っている曲だ。MilesとWayne Shorterが八小節交換、つまりバトルをやっている。 俺はこの曲の破天荒なTony Williamsのドラムが大好きだった。
「それはスタンダードじゃないだろ。ワシは新主流派はあまり聴かんのじゃが・・・・。確かこんなテーマだったな。コードは・・・・」
「ソロを八小節交換しませんか?」
「入れたり出したりじゃな。ワシの好きなヤツじゃ。しかし、最後まで逝っちゃいかんぞ」翁の目がエロく光った。
「お手柔らかに」薫子は、軽くお辞儀した。「ピアノがテーマ始めて下さい。三回テーマ繰り返したら、私から始めます。
あゆみちゃん、好きに弾いて。テーマではコードチェンジするけれど、即興の部分はモードだから、最初はフレーズの繰り返しでいい。フレーズに流れがあれば、多少、ミスチョイスしても大丈夫よ。神ノ内さん、煽る所は煽って下さい。
深浦さん、要所でコード出してあげて下さい。じゃあ、ピアノからどうぞ」
「ふん。ワシに指示出しするか。・・・・まあいい」翁は、速いテンポで弾き出した。
俺はついて行く。あゆみは、二回目の繰り返しの途中から入った。
薫子は三回目の頭から入った。忠実にテーマを吹く。
それだけで分かった。こいつ、この曲を結構吹き込んでいる。
くそっ。俺は一瞬、頭に来て、薫子を崩してやるつもりで、Tonyの様に、テーマのリズムとは全く異なる譜割のフィルを、隙間に打ち込んでやる。
薫子は全く動じない。
「橘君には、即興するための度胸が一番必要なんじゃ。どうじゃ、何か四人でやってみるかね」
「良いですよ。じゃあ、深浦さん、Harbie Hancockの“The Sorcerer”って曲、ご存じですか」
「君、Milesは嫌いだったんじゃないのか」と、俺は思わず言った。
それは、Miles Davisが一九六七年に出した、当時全盛のフリージャズの喧噪とは、真逆のクールな同名タイトル・アルバムに入っている曲だ。MilesとWayne Shorterが八小節交換、つまりバトルをやっている。 俺はこの曲の破天荒なTony Williamsのドラムが大好きだった。
「それはスタンダードじゃないだろ。ワシは新主流派はあまり聴かんのじゃが・・・・。確かこんなテーマだったな。コードは・・・・」
「ソロを八小節交換しませんか?」
「入れたり出したりじゃな。ワシの好きなヤツじゃ。しかし、最後まで逝っちゃいかんぞ」翁の目がエロく光った。
「お手柔らかに」薫子は、軽くお辞儀した。「ピアノがテーマ始めて下さい。三回テーマ繰り返したら、私から始めます。
あゆみちゃん、好きに弾いて。テーマではコードチェンジするけれど、即興の部分はモードだから、最初はフレーズの繰り返しでいい。フレーズに流れがあれば、多少、ミスチョイスしても大丈夫よ。神ノ内さん、煽る所は煽って下さい。
深浦さん、要所でコード出してあげて下さい。じゃあ、ピアノからどうぞ」
「ふん。ワシに指示出しするか。・・・・まあいい」翁は、速いテンポで弾き出した。
俺はついて行く。あゆみは、二回目の繰り返しの途中から入った。
薫子は三回目の頭から入った。忠実にテーマを吹く。
それだけで分かった。こいつ、この曲を結構吹き込んでいる。
くそっ。俺は一瞬、頭に来て、薫子を崩してやるつもりで、Tonyの様に、テーマのリズムとは全く異なる譜割のフィルを、隙間に打ち込んでやる。
薫子は全く動じない。
by jazzamurai_sakyo
| 2010-02-03 08:29
| 第三話 「紫の指先」