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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第1節の1

     一

 桜の花弁。泥の中に踏みしだかれた、その汚らしい美しさ。
 飲み尽くしたハイネケンをビニール袋に片付ける。高野川と賀茂川の合流点の手前、飛び石の上で遊ぶ子供達。その色鮮やかな服が視覚に染み入る。明るい、四月の光の中で、それは目まぐるしく動いている。
 「もう終わりだな」と何の感慨もなく呟く時の、吐き気のしそうな快感。
 枝の先で散り残った花弁達は、怠そうに鈍く、俺の視界をちらつく。日射しは暖かく太股を照らす。安全靴の中を重く湿気る。
 残されてきた最後のハッパが、今、口元で全て焼き尽くされた。指先は、その熱を怖がらずに味わっている。
 俺の右側、少し離れた場所で、同じように川面を見ながら腰掛けていたアベックの男の方が、川の水たまりに小石を投げ入れた。
 その音の凝縮に俺は打ち抜かれる。
 恐ろしい明るさの中に、風が少し吹く。俺はもう一本買っておいたハイネケンを開ける。
 いきなり、カミソリのような音を立てて、白い飛沫が髪にかかる。
 笑わずにいられない。
 「ねえ、なんかあの人、気持ち悪くない」
 小声とは思えない声で、アベックの女の方が男に話しかけ、二人は立ち上がった。
 喉に流されたハイネケンは、ぬるく、それが俺を不快にした。
 「そうだ、チョコレートを買ってこなくっちゃ」
 ふらっと立ち上がって、何の恥じらいもなく、ほら、俺はまだ大丈夫だ、と思う。
 出町柳商店街へ行くために飛び石へ向かう。温かい空気がまとわりついて、俺を撫で、そして過ぎて行く。
 「ハーゲンダッツでも良いんだよな」
 わはは。一つ一つ飛び越えるのが、こんなにスリルに満ちているとは思わなかった。楽しくて仕方がない。虚無感を除いては。

 さすがに帰りは飛び石を行く自身が無く、俺は出町橋を回った。自分でもおかしいと思う程に、ニコニコとしながら、グリコのアーモンドバーを頬張りつつ土手に降りようとすると、アスファルトの上で、黒猫が死んでいた。
 「可哀想」と小声で言って、次の瞬間には違う事を考えているに違いない女子大生二人。
 俺はしゃがんでそいつを見てみる。
 きれいな、漆黒の固まり。ただ、口から血を流しているだけ。
 後ろからクラクション。俺はちらっとそっちを見て、猫の首根っこを掴んで持ち上げる。
 顎が外れている。
 仕方なくアーモンドバーを口で噛んだまま、両手でそいつを抱き、土手に降りる。
 グレーのパーカーの袖元についた、そいつの鮮明な赤い暴力。
 腕の中のそいつは、まだ暖かかった。
 何処かに埋めてやろうと思い、自分が最初に座っていた場所に行くと、女子高生が一人、座ってしまっていた。
 フルートを抱いて。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-01-02 00:30 | 第一話 「黒猫は踊る」