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ジャズ侍のブログ小説 ~ 青い光      

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1990年代半ばの京都を舞台にしたバンド小説を書いてます。文中の場所、人は全く架空のものであり、実在の場所、人との関係は一切ありません。掲載は当面、毎月第一水曜日の予定。

第一話 「黒猫は踊る」 第2節の2

 バンドには、プロにならないか、という話が度々持ちかけられるようになった。だが、俺はその気になれなかった。
 一月に三回程度のライブには何時もそこそこの客が入り、ツアーに行けば、客で来ていた地元の女を抱けた。飯も酒も寝る部屋もその女持ちで。
 だが、俺は段々、バンドを維持することに嫌気が増していった。
 リーダーと言われて、色々な雑務を引き受けて、そして俺が客の前でやっているこの音は何だ?
 まるでスタイル・カウンシルからポール・ウェラーの毒を抜いてグラニュー糖を塗したかのような演奏しかできなくなった。
 それでいてバンドは、毎回毎回顔一面に「私を楽しませて」と言わんばかりになっている客を相手に有頂天になっていた。やり続けている曲には、もうずっと前から飽きが来ているのに、止められずにやり続けたり、何度もアイデアを再利用したりして、出し殻のようになるまで扱ったりした。
 唯俺一人が時折、言われた通りにならない感情と直結したがる両手、両足を無理矢理理性で押さえ付ける苦痛に、空々しい笑顔を歪ませていた。
 その俺の様子は、他のメンバーには鬱陶しいものでしかなかったんだろう。
 二年前の春、俺は突然、キーボーディストから「辞めてくれないか」と言われた。電話の向こうで奴は、積年の恨みを晴らすかのように言った。「何時も何時も暗い顔で演奏されちゃ迷惑なんだよ。あんたの頭でっかちと、硬いドラムには、昔からうんざりだった。俺達はあんた抜きでメジャーデビューする」と。
 俺は、「ああ」とだけ言って電話を切った。
 それから俺は仕事しかしていない。仕事場の図書館と家との道を行ったり来たりするだけの日々。他の音楽仲間から時折回ってくるハッパを楽しむ位だ。
 辞めて以来、新しい音楽を買うことはないし、シーンをチェックすることもしない。古いジャズばかり聴いている。
 『南蛮』は東京に進出したが、メジャーで耐えられるだけの力は無かった。CD一枚出しただけで、解散したはずだ・・・・。
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by jazzamurai_sakyo | 2008-01-23 00:30 | 第一話 「黒猫は踊る」